第10話

 モートは警戒した。


 すぐに振り返って、店内の様子を見ても、青い色の魂で赤い魂が埋もれてしまっていた。当然、アリスの魂ではない。アリスの魂は黄色だった。

「アリス。少しぼくの傍にいてくれ」

 モートは警戒をしながら、アリスの肩を抱ける位置まで近づいた。赤い魂は危険を意味している。何かが起ころうとしていた。それは、命の危険がその人に牙を剥いているということだ。

「どう……したのです? あ……」

 アリスも普段大人しいモートの鋭い警戒をした目に気が付いた。モートは注意深く店内の人々を観察した。周りは皆、平和に買い物をしている。なら、その赤い魂の人は、誰かに恨みを買われているか、偶然危険な人物に突発的に出会ったといったところだろう。後者でも前者でも黒い魂を持つものがいる。そのものは、複数かも知れない。

「あ! あの人?!」

 アリスが驚きの声を上げた。


 Angel 2


 アリスは前方にいる背の高い金髪の男から神々しいオーラのようなものを感じた。何とも言えない落ち着いた気持ちにさせる。そのオーラを全身に浴び。アリスはその男がモートとは何もかも対照的だと思った。

 モートは安心できる男だが、常時油断ができない空気を発しているのだ。何に対して油断ができないのかは、アリス自身はさっぱりわからなかったが。ただ、静かに這いよるかのような不思議な恐怖を感じる類の空気だった。

 隣でアリスの肩を庇うように抱いていたモートが、その男に気が付いた。モートは静かにアリスから離れて、その男の方へと歩いて行った。

 店内の人々は、急に大きな異変が起きたかのように、モートとその男の方を見つめた。神々しいオーラの男の方が早かった。口を大きく開き、大袈裟に両手を上げたのだ。


「やっと、出会えた! あなたを探していたのです!」

 アリスはその男の正体を薄々気が付いていた。モートとは正反対の……天使か神かだ。

アリスはその男の前で自然に胸の上で十字を切っていた。

 何故かその男の前では、まるで、子供の頃に戻って来てしまったかのような気持ちになっていた。

 しかし、隣のモートは警戒を怠らなかった。

 何故かしら? こんなにもいい人に対して?

 そう、警戒することなんて何もないのに?

 アリスは、ここグレードキャリオンの店内の照明にてらされたモートの表情を見つめた。

 モートの顔は相変わらず険しく目の前の男からモートは少し間合いをとっていた。

「ねえ、モート。彼は私たちの味方よ」 

 アリスはモートに告げた。

「そう……きっと、天使か神よ……」

 アリスは一人。確信をもって呟いていた。


Angel 3


 この男は誰だろうか? 何ものかはわからない。けれども、自分とは違う。それも根本的に、あるいは決定的に……。

 モートはその男の魂が何色にも見えないのに驚いた。

 周囲の人々もこちらを見ているが、別に警戒をしているというわけではなく。壁に掛けてある洋服を選ぶ人もいた。

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