第8話
相手が何ものかはさっぱりわからない。けれども、これだけは言える。モートはとても良い人だ。と……。
Voice 5
モートは考えた。こうすることで、アリスは犯罪に巻き込まれることもなくなるだろう。
後の4人の男たちは、真っ青な顔で仰天し、黒い服のモートを見つめていた。何かの手品か魔術師とでも思っているのかも知れない。
モートは、髪の毛が真っ白になりそうなほど青ざめた顔のヘイグランドの手を放した。ポリポリと鼻を掻く。この男の魂は黒。
だが、何が起きているのかさっぱりわからないところがあった。考えてもわからない。アリスは何を言っているのだろう? 恋人って誰と誰がだ?
モートは途方に暮れ、窓の外の雪を眺めた。自分の盲目の人生は、更に暗く静かな無音な道になりそうだった。だが、一筋の光。モート自身もわからない光が自分の空の心を照らしていた。ただ、この場にいることが、不思議な気持ちにさせていた。
翌日。
朝日が久しぶりに昇ったホワイト・シティで、モートはアリスと共に大学へと登校していた。アリスの屋敷からノブレス・オブリージュ美術館はかなり遠い。だが、聖パッセンジャーピジョン大学はクリフタウンにあるから、ヒルズタウンからは更に数十ブロックもあって、もっと遠かった。
そのため、アリスは少しだけ早起きして、ノブレス・オブリージュ美術館行きの路面バスへと乗ったようだ。
あの夜は、モートをアリスは手品師だと言って、見事に5人を煙に巻いた。
5人とも突然に現れた不可思議な男のモートを恐れてもいたが、何も言わずに遠い国へと帰って行った。
その日は、まったく収穫のない日だった。
モートは毒薬を密かに捨て、黒い魂である罪人を狩ることをしなかった。モート自身、自然に自分が変わっていることが信じられなかった。
狩らない日は、今までまったくと言っていいほどなかったのだ。
帰り際にヘイグランドは改心し、借金返済後は新しい事業を立ち上げ真面目に働くんだと言だしていた。
「ねえ、モート。いつもノブレス・オブリージュ美術館にいるようだけど、あそこに住んでるの?」
「……」
「ねえ、モート。ヘレンさんがあなたのお母様?」
「……」
「あら? モート。聖パッセンジャーピジョン大学に白鳩の群れが飛んでいったわ」
「……」
「モートのお父様って、どんな人?」
「……」
アリスの今日はとても機嫌が良かったようで、モートはアリスの声全てに耳を傾けていた。
自分の何が変わったのだろう。モートには永遠にわからないことだった。ただ、アリスの声が大好きな音楽や音よりも自分にとって大切で親近感の湧くものだった。
これからの狩りは、モートだけの狩りではなくなった。二人での狩りだ。そんな思考がモートの頭を占めだした。
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