第7話

 激しい口論の中で、その男が多額の借金の返済に困っている節がでていた。ホワイト・シティでは、借金の返済に困るものには、黒い魂を持つものもいる。そこまでモートは考えた。

アリスが死亡した場合の遺産は莫大な金額だろうし、いずれにしても結婚後は借金の返済に困ることはないだろう。

 無論、その男が最初にアリスと結婚をすると言いだせば、他の男も黙ってはいなかったのだろう。黄色の魂はアリスと結婚できるんだという。一時だけの安堵感からくるものだったのだろう。毒薬の用途は違う使い道にも応用できるのかも知れない。いずれにしても、魂の色は罪を表わす黒に近いのだ。


 そこまで考えたモートだったが……。


Voice 4


 アリス・ムーアは頭を抱えて考えた。こうなってしまったのは、最初の一通の便箋からだった。遠い国から次々と求婚者がやってきた。

 五人の男たち。そのどちらが先だったのかはわからない。


 アリスが見る限り、皆お金に困っているが、若くてハンサムで将来有望な人たちだった。その誰かから便箋が来た。きっと、滅多に行かない社交パーティーでアリスを知ったのだろう。知らない男だが五人とも、アリスが社交辞令で「隣国にはとても興味があります。病弱だし静養にも丁度良く。是非、行ってみたい。暮らしてみたいです」というようなことを言ったのが、これだけ大きくなったようだ。便箋には確か「こっちへおいで」のような文章だった。隣国は南に位置していて、ホワイト・シティとは真逆の常夏の国だ。

 病弱だからか、この広大な屋敷で二人だけで暮らしているからか。家族や親族は冗談でもなく誰もいないのだ。皆、血筋で身体が弱かった。 

 溜息を吐いて、シンシンと降る窓からの雪景色をアリスは見つめた。無音に降る雪で心を落ち着かせようとした。だが、アリスは誰が最初だったかを、思い出そうとはしなかった。


 その時。ふと、アリスは部屋の片隅の花瓶にモートの面影を見い出した。それは、モートの顔のようで、こちらを心配そうに見つめている感じがした。

 アリスは「心配しないで」と、無意識に花瓶に向かって優しくウインクをしていた。

 だが、モートの面影はいきなり一人の男に飛び掛かった。 

突然の出来事だった。モートが五人の男たちの中にいた。ヘイグランドの右手を締め上げていたのだ。


 モートは外へ男を静かに連れ出そうとしている。

 けれども、アリスはその場面が一斉に崩れ出すことを言うことにした。

「ごめんなさいね……この人が、私の恋人なの……」

 ニッコリと微笑んだアリスはモートの左腕を強い力で引き寄せた……。

 アリスは掴んだモートの左腕を決して離さないことにし、微笑んでは、モートの左手を頬に摺り寄せた。


(そうですよね。こんな不思議な人なら私の人生を救ってくれるかもしれない。今まで独りで暮らしていたけれども、もう男たちに言い寄られるのはまっぴらなのよ。お金はあるわ。でも、それだけじゃない。モートなら何でも知っていそうだし、いつも助けてくれそうだし。……顔もいいし……。)


 アリスは遠い国からの犯罪が年々、ここホワイト・シティに流れ込んでいることも知っていた。実際、藁にも縋る気持ちだった。この街で一番に狙われやすいんじゃないかと思った日も……何度もある。


 だからアリスはモートに靡いた。

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