第42話 お茶会の予定

「ねえ、ケネス、バーカムステッド家のオスカー様って、婚約者はいらっしゃらないの?」


「なんだって?」


学園の食堂で私はケネスに話しかけ、ケネスは妙な顔をして聞き返した。


隣には、うんざりした様子のルシンダとアーノルドが座っている。


この兄妹は、男女が二人きりで話したりしてはいけないと言う決まりをどうにかごまかすために駆り出されたのだ。


従って、この前の園遊会でのオスカー様と同じように、デレた会話を始めたら、すぐ散会するからと、厳重に言い渡されている。


「のろけなんか聞いていられませんからね」


アーノルドには念を押された。



「オスカーには婚約者は決まっていたよ。だけど、話がなくなったんだ。なんでそんなことを聞くの?」


「ええと……」


私は両親の新発案の話をした。


うんざりしていたはずのルシンダとアーノルドが、がぜん聞き耳を立て、まじまじと私たちの様子を見物し始めた。


「つまり、モンフォール家は、バーカムステッド家へ婚約の打診に入ったと?」


(ケネスではなく)ルシンダが、話を要約した。


「そうなの。どうしましょう。早く両親の誤解を解かなくてはいけないわ」


「誤解って何?」


(ケネスではなく)アーノルドが、素早く聞いた。


ケネスは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「オスカー様が私を気に入ったと言う誤解をしてますのよ」


アーノルドとルシンダが、なるほどと言った様子でフンフンとうなずいている。


「親しげに見えるようにしてほしいと頼んだんだよ。でないと中に入れないからね。公爵家の馬車に同乗すればノーチェックで中に入れる」


ケネスが渋い顔で説明した。


「そうなの。両親に事情を言ったのですが、二人ともバーカムステッド家のことを忘れていたとか言いだして。でも、次のパーティにケネスを招いていいと母が言いましたので、今度はケネスに正式な招待状をお送りできそうです」


「まあ、よかったじゃない!」


ルシンダが思わず声を上げた。


「そのパーティは少人数の方がいいね。僕はそう思うな。もう二人きりのお茶会に変更すればどうかな?」


アーノルドの発言にケネスは目をきらりとさせた。


わ、ケネス、かっこいい。眉と目がキリッとしているところが本当に好みなのよね。

鼻が細いところも実は好き。怒ると鼻孔が少し膨らむけど。

口元もいい。下唇がわずかに少し厚めなところをセクシーだと思っているのは、絶対に内緒だけど、顔に出てたらどうしようかしら。


「ちょっと、ねえ、シュザンナ、招待客の予定はどうなってるの?」


「あ、母がオスカー様をお招きしたいと……」


アーノルドとルシンダの目から光線が放たれた……ような気がした。


「じゃあ、私たちも招いて」


「ぜひ、呼んで欲しい」


食い気味のルシンダとアーノルドの反応にびっくりしたが、私は承諾した。


「わ、わかったわ?」


「シュザンナ、大勢呼んで。その方がいい」


ケネスが言いだした。なんなの?この反応は?


「いっそ、ウィリアムも呼ぶ?」


ルシンダがケネスの方を向いて尋ねた。


ケネスが一挙に渋い顔をする。


「毒を以て毒を制すか……」


アーノルドが腕を組んで、訳の分からないことを言いだした。


「ウィリアムは毒じゃないわ。オスカー様だって……」


いや。


オスカー様は毒かも知れない。


「ねえ、オスカー様は毒じゃないの? それとも、毒なの?」


私が一瞬黙ったものだから、ルシンダが熱心に続きを聞き出しにかかった。


「えー……と。副作用のある薬的な何か? 後遺症の残る解毒剤とか」


ルシンダとアーノルドは私の意外なオスカー評価に、あっけに取られて私の顔を見つめていたが、半目になって腕を組んで考えているケネスに視線を移した。


どういう意味なの?と聞いている。


「合ってるんだ……シュザンナの例えが」


ケネスは難しい顔をしていた。


「ま、まあ、オスカーは……その、一筋縄ではいかないと言うか……複雑な人間だな。だけど、馬車を出してくれた。感謝はしてるんだ。出来るだけのことをしてくれた。だけど、なんだか、行き過ぎみたいな気がしてきて……」



それから、ケネスは、ケネスにしては珍しくどんよりした目つきで私を眺めた。


「ねえ、シュザンナ。オスカーをどう思った?」


アーノルドとルシンダはそろって私を見た。


どうしてだろう? 二人、いやケネスもだ、妙に熱っぽく私を見ている。



「とっても変わった人だと思ったわ。なんだか、よくわからない」


私は正直な感想を述べた。


「でも、親友のケネスにこんなこと言ってしまったら悪いけれど……とても意地悪な人でしたわ。なんだかわからないけど……」



ふううーっっとケネスがため息をついた。

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