婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?
buchi
第1話 幼馴染の婚約者
「確かに顔だけに限定すれば、すごくステキですわ」
親友のルシンダが言う。
貴族や、国の中でも限られた富裕層だけが入学する学園の食堂で、私たちは遠くを通るケネスを眺めていた。
ケネスはオズボーン侯爵の一人息子で、黒い髪と灰色の光るような目がすてきな、背の高い男の子だった。
そして、私の婚約者だった。
婚約したのは4年前。当時、私は13才。
引き合わせのパーティーの席に、「将来の旦那だんなさま」は、ふてくされ、仏頂面をして現れた。
私は着飾らされて、ビクビクしながら精一杯の作り笑いを浮かべて彼の前に現れたんだけど。
「こんなメガネっ子、気に入らない。どうにかならないの?」
「……申し訳ございません」
私は泣きそうになった。メガネは母の命令でしているのものだ。
太陽光線が成長期の娘の目に悪いと、気に入りの医者に言われた母は、それを固く信じ込んだ。
母は父の仕事について二年ほど砂漠の国に赴任したことがあり、その時かかった医師を深く信頼していた。それ以来、帰国してからもたびたびアドバイスを仰いでいた。
私はメガネがあってもなくても、美人だとは思っていなかった。だから、やっぱりそうなのかと、元々ない自信がゼロからマイナスに食い込んだ。
小さい頃は一緒によく遊んだ。
両親が外国に赴任している間、私は伯母のグレシャム侯爵夫妻の王都の屋敷に預けられていたのだが、グレシャム家の屋敷はオズボーン家の屋敷と隣り合わせだった。
私が庭に出ていると、目ざとく私を見つけたケネスが、子分の執事の息子たちを従えて、グレシャム家の庭に乱入することもあった。
ケネスは元気のいい男の子で、私は何かと付きまとわれ、子どものケンカになり、そうなると男の子は圧倒的に力が強くて、結局、私はいつも泣かされていた。
侍女のキトリはカンカンになって怒ったが、伯母のグレシャム侯爵夫人は鷹揚に笑っていた。
オズボーン侯爵夫人も時々やって来て、息子のケネスのわんぱくぶりを謝っていたらしいが、伯母はいつもケネスに向かって「淑女に本当に悪いことをする人がいたら、紳士は助けてくださるものよねえ?」と話しかけた。
そんなときにケネスが何と答えたのか知らない。
一度だけ、手下の執事の息子たちを連れずに、伯母の招きでお茶にやって来たことがある。
その日は、どうしたわけか、彼はとてもおとなしくお茶の席に座っていて、名家の貴族の子息らしく申し分のないお行儀だった。
私もケネスを総合的に言えば好きかなと考え出したのだが、伯母が席を外すと、彼はたちまちケンカを売り始めた。
「こんなお茶会なんか、面白くないよ!」
私はむうとふくれた。
「それなら、来なければいいのよ!」
売り言葉に買い言葉、ケネスは私の長い髪をつかんだ。ドレスを着て、髪の毛の長い女の子はケンカには圧倒的に不利だ。
「なんでそんなこと言うんだよ!」
「痛い、痛い、髪の毛、放してよ!」
大騒ぎの最中、誰もいない客間が、一瞬、シンとなった。ケネスが黙ったのだ。
ケネスを見ると、真っ赤な顔をしていた。彼は私を見つめていて……顔が近付いてきて、彼の唇が私にキスした。一瞬の出来事だった。
私はびっくりした。ケネスは何を考えているの?
だが、伯母が朗らかな声で何か話しながら部屋へ戻ってきた。オズボーン侯爵夫人がケネスを迎えに来たのだ。
客間のドアが開いた。
「残念ね。ケネス。仲良くしていただいてたのに……」
後になってわかったのだけれど、その日はケネスとのお別れの日だった。
両親が帰国したので、私はモンフォール家の屋敷に戻ることになったからだ。
それから、何年かが過ぎゆき、ケネスはカッコよくなったのだが、私は母の厳しい監督下に置かれて、物々しいドレスを着せられた上に、メガネを強要された。
そして、あのケネスとの婚約が、家同士の話し合いで知らない間に決まっていた。
婚約を決めるパーティの席上、そもそも容姿に自信のない私は、彼の姿を見た途端、委縮した。
とってもかっこいい。すごくきれいな顔立ちで、きっとモテるだろう。一方で、今の私は……。
一緒に遊んで、キスさえもらったのだけれど、だけど、それは昔の話。
ケネスが、覚えているかどうかも分からない。
婚約者になる男性に、嫌われたくない。
でも、彼はどう見ても仏頂面だった。
挙句にあの言葉だ。
ついてきた侍女のキトリは一生懸命慰めてくれたが、私はポロポロ涙が出てきてしまった。
「まあ、ケネス、そんなことを女の子に言うもんじゃないわ」
ケネスの母親のオズボーン侯爵夫人はあわてて言ってくれたが、ケネスはそんなこと気に留めた様子もなく、侯爵邸のよく手入れされた庭園ではなくて、どこかに行ってしまった。
学園に入ってからも、私はケネスの顔を見るとビクビクした。
出来ることなら、ケネスの顔を見たくない。
どう考えても気に入られていないだろう。あの仏頂面を見たくなかった。悲しくなる。
私は、いつものように親友のルシンダと食堂でしゃべっていた。
ルシンダが真剣に聞いてきた。
「ねえ、その婚約者、やめるわけにはいかないの?」
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