【G②-3】影と光と
私がスマフェスに参加してもう半年も経とうというところ。
流行りのツイッターに私もアカウントをつくって、『ムンクさん』の動画更新など宣伝にも利用していたのだが、まさかそこで、自分の姿の写真を見ることになるとは思わなかった。
こんなことになるなら『新選組』の『虎徹』さんと『きたぐに』の『アス』の隣という両手に花の状況で、だらしなくニヤけて写るんじゃなかった。
私だけに関して言えばそのくらいの感想で、実のところは特に問題を感じていない。
なぜなら、以前にスマ動でダンスのアーケードゲームをプレイする様子をアップしたことがあったからだ。
今となっては懐かしさすら感じるのだが、当時は再生数に伸び悩んでいて、ホラーゲームの他にそんな動画もアップしていた。つまりその時点で顔出しは済ませていた。当時からそうだが、たまに忘れた頃に道を歩いていて声を掛けられたりすることがあるくらいだ。
しかしながら私のようなパターンは稀有で、ほかの配信者にとっては本当に大変なことになったと思う。
女の子の配信者に特に多いのだが、声だけの配信だと視聴者というものは想像力が余計に働いてしまうようで、顔出し、顔バレしようものなら「ぶっさ(不細工だ)。コミュ(コミュニティ)抜けるわ」などと自分勝手な定型文のセリフを流して本当に『コミュニティ』を抜けてしまったりする。
『コミュニティ』というのは配信者のファンが集う場所のようなところで、有名配信者となれば数万人のファンが登録している。そのページでは生放送や動画投稿の予定を書いておいたり、掲示板でファン同士の交流できたり、コミュニティ限定の動画をアップロードできる。
今や私も1万人ほどの登録者があるのだが、最近は予定を書き込むのがちょっと面倒になってきたりしている。
まあ、ありがちなコメントの説明はしたものの、問題の本質はそこではない。
顔がバレたことで、個人情報までが明るみになってしまい、被害を被っている配信者も出てしまった。
インターネットの怖さは理解していたつもりだが、私が実況しているホラーゲームなんて比にならないレベルで恐ろしい事態だ。
『新選組』の『虎徹』さんとはスマフェスのあとで、お互いの連絡先を交換したのだが、彼女も大学で声を掛けられることが多くなったという。
配信者には多いし私もそうなのだが、彼女はあまり人の輪の中に入らないタイプだから、それが相当に堪えたらしい。大学にまでファンだという人が来て、家まで付いて来られそうになったとも聞いている。
日に日に疲れた声で電話やスカイプに出る彼女を見ていると、私もなにか力になれないものかと思わずにはいられない。いや、彼女は贔屓目に見なくても魅力的な女性だし。だから、普段は何気なく流し見ている「ぶっさ」なんてコメントに腹が立って、NGユーザー登録しちゃったりして。
「『近藤さん』とうまくいってなくてさ。私もどうしたらいいか、もう分からなくなっちゃってて……」
スカイプで見た『虎徹』さんの俯いた姿が思い出される。かける言葉が見つからなかった。
彼女の悩みの種は顔バレだけでなく、相方の『近藤さん』が動画を作れないくらいに病んでしまっているということもあった。視聴者の求める面白さに応えようとし過ぎて、プレッシャーを感じ過ぎてしまっているようだ。スマフェス以降、『新選組』の動画はアップされていない。
しっかりしろよ、と『近藤さん』に言ってやりたい。自分たちがゲームを思いきり楽しむことこそが『新選組』の本領だ。二人の場合、ウジウジ悩んでいたら伸びる再生数も伸びはしないだろう。
二人の様子を実際に見たから分かるのだが、おそらく『虎徹』さんは『近藤さん』のことが好きなのだろう。人とコミュニケーションをとらず人間観察ばかりしてきた私なので、そういう察知能力には自信がある。
だから、スマフェスが終わったあとも彼女を食事に誘ったりはしなかった。フェスは最高に楽しかったけれど、唯一後悔があるとすればそのことだった。
身を引いた、と言えば聞こえはいい。まあ、連絡先だけは私から交換したわけだが。
写真流出の一件のせいでスマイル動画内には今、そういった暗い雰囲気が立ち込めている。なにか打開策はないかとも寝る前に考えたりもするが、目が覚めるといつの間にか朝になっていて、仕事に行って帰ってきたら動画制作をするというなんら変わりのない多忙な毎日だ。
最近は臨時収入も増えた。
もちろんゲーム屋店長としての臨時収入ではない。
スマイル動画の運営放送や、俗に『案件』と呼ばれているゲーム会社からの宣伝目的の公式放送への出演依頼がだんだんと増えてきたからだ。
こちらは動画制作というよりは生放送への出演が多いのだが、月によっては自分の仕事を超えるくらいの収入があるから、もはや副業とは言えないくらいだ。
スマフェスに出るまではゲーム実況動画の制作なんて趣味の範囲くらいにしか考えていなかったが、こうなってくると今の仕事をやめて配信一本で暮らしていけるんじゃないかと考えてしまう。まあ、そういった臨時収入がない月もあるから、それを考えるのはもっと先の話になるだろうけれど。
明日投稿する動画を編集しながらそんなことを考えていたら、携帯に『アス』からメールがあった。彼女とはなかば強引に連絡先を交換させられたのだが、メールには、
「ツイッターみてね♪」
とだけあった。
ライバル視していた彼女だったが、会ってみると裏表のなさそうな底抜けに明るい女の子だった。なかば強引、というのも本当にその通りで、舞台の上でゲーム実況をするという、今まで見たことも聞いたこともないようなライブが終わって、控室で私は携帯を見ていた。すると彼女は音もなく近寄ってきて、
「『ムンクさん』!ほらぁ!連絡先、コーカンコーカン!」
勝手に取り上げられて赤外線通信をされてしまった。
オフモードの時は清楚系女子大生をしていると『kunちゃん』が連絡先を交換しながら後にフォローしていたが、やはり
もし同じクラスにいたら絶対に友達になっていないタイプの子だ。だから、他の配信者には敬称を付けるけれど、アイツに関しては呼び捨てでいいと思っている。
仕方ないなあ、というくらいの気持ちでツイッターを開いて、フォローしておいた彼女のページに飛ぶ。
そこには…………
「ふはっ。やっぱスゲーわ、アイツ」
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