第三十話 病気と怪我


 前田果歩さんが起きてから、前田教諭はすぐに両親にポーションを使った。

 最初に忠告をしておいたが、忠告は無駄になった。


 神経系の問題である場合には、より上位のポーションが必要になる。


 前田教諭の両親は、精神的な衰弱と怪我が原因だったために、ポーションと果歩さんが顔を出すことで治ってしまった。


 そして、前田教諭は学校を辞めた。

 学校を辞めた日に二人は、俺たちの拠点を訪ねてきた。


 俺は、学校に行っていたために、ヒナが対応を行った。


 すぐに今川さんが呼び出されて、取材を受けてもらう事になった。

 全て実名での告白だ。


 雑誌に乗るときには、実名のまま(仮名)となる予定だ。

 知っている人が読めば、事実であることや、実名だとすぐにわかるだろう。


 雑誌の発売に併せて雑誌に乗せられなかった内容がネットで公開されることになっている。

 同じタイミングで、森田さんがいろいろな場所に似たような記事を投稿する。


 俺と森田さんと今川さんで話し合って、きつめの内容は、雑誌では告白している感じにして、ネット上で憶測記事として流すことにした。


 既に、複数のサイトに書き込みが行われて、情報が拡散されている。


 そして、TV局が動く前に、ネットでは記事内の人物たちの特定が行われ始めた。すぐに、被害者と加害者が判明した。


 雑誌には第二弾として、”兄”の話が掲載された。

 こちらは、兄は実名報道だ。学校での不正行為や不正行為の強要などを告白した。


 TV局は取り上げない方針のようだ。


 前田教諭は、家族で伊豆に移動引っ越しをしてもらった。いくつかの場所を、経由した。海外まで使って、足跡を消した。行政への手続きは行ったのだが、家の売却や処分はしていない。

 前田教諭の家族が住んでいた家には、レナートからレオンとフェリアを連れてきて、住んでもらっている。別荘みたいな扱いだ。二人とも喜んでいるから問題はない。生活を行っている状況にしている。この家に凸ってくるマスコミはいるが、捕まえて、眠らせて、近くの公園に捨てている。まだ、ターゲットに繋がるような連中が現れないのが残念だ。行政に繋がる奴らなので、凸ってこない可能性も高いが、罠としては十分に機能すると思っている。


 家族は、安全面を考慮して、拠点の近くに住んでもらうことになった。


 そして、俺たちの父さんと母さんを手伝ってもらう事になった。

 児童養護施設には、児童が増え続けている。犯罪被害者の子供だけではなく、事故で両親をなくした子供が施設には集められた。馬込先生や森田さんだけではなく、弁護士の森下さんも子供を連れて来る。

 父さんと母さんだけでは、手が足りなくなってきていた。

 前田教諭の両親は、快く協力を申し出てくれた。


 そして、前田教諭が子供たちに勉強を教えてくれることになった。


 雑誌発売から1週間も経てば、情報もしっかりと拡散されている。ネットで積極的に情報を収集してない人でも、情報に触れるくらいには有名な事件になりつつある。

 学校には、TV局は来ていないが、週刊誌やネット系の記者から、取材を受けたという生徒が現れ始めた。


「吉田先生」


 今日は、吉田教諭から呼び出された。


「新城。これが、明日の朝に流れる」


「え?」


 吉田教諭から渡されたプリントには、生徒へのお願いという命令書だ。


 マスコミの取材を受けた場合には、相手の所属と氏名をしっかりと聞いて、学校に報告する。できれば、取材は受けないようにする。

 一人では行動しないで複数で行動する。

 学校が調査を実施したが、ネットや雑誌で話題にされているような事実はなかった。

 前田果歩という生徒は自己都合で学校を辞めている。

 前田教諭は両親と果歩の療養のために学校を辞めている。

 従って、ネットで流れているようなイジメが原因ではない。学校が、前田教諭に何かを強要した事実はない。


 修飾された言葉で書かれているが、結局は”自分たち”には”非”はない。らしい。

 調べたが問題は見つからなかった。だから、問題はない。


 逆効果だと解らないようだ。


「吉田先生。このプリントを貰っていいですか?」


「現物はダメだ」


「複写は?」


「コピー機ではコピーできないぞ?」


「それは、大丈夫です」


 スキルを発動して、転写する。

 羊皮紙に転写した時には、難しかったが、転写先が紙だと簡単だ。


「おい」


「大丈夫です。スキルです」


「本当に、なんでも有りだな。それで、プリントはどうする?」


「え?反論を用意して、情報を流しますよ?」


「ははは。事前に用意するのか?」


「そうですね。それでは、面白くないので、少しだけ小細工しますよ」


「やりすぎるなよ?」


「大丈夫ですよ」


 まずは、あの女だ。

 前田果歩さんをイジメていたグループのリーダーの女。


 まずは、今川さんが動いてからだ。


---


 今川さんから連絡が来た。

 予想通り、あの女は取材を受けようとしたが、家族が拒否してきた。虚栄心の塊のような女だ。あいつらと同類なだけある。自分が行った事を正当化する能力は素晴らしい。

 家族もよくわかっている。

 マスコミの取材を受けたら、間違いなく”悪者”にされてしまう。

 散々、自分たちが行ってきた事だ。追われる立場になってやっとわかっただろう。


 今川さんから貰ったデータでは、この辺りのはずだ。


 あった。あった。

 あの女の取り巻きの一人。まずは、こいつからだな。


 家全体を結界で覆ってから、転移で侵入。

 スマホを拝借して・・・。指紋認証は、本人の指を借りれば簡単だ。


 そして、プリントをネット上に情報と一緒に投稿。


 さて、取り巻き全員で同じ内容では飽きられてしまうから、微妙に変えつつ、情報を拡散していこう。

 写真の捏造が簡単で嬉しい。こんな物に証拠能力を求めてしまうのがバカらしくも思えてしまう。拙い偽造のテクニックを使って、専門家が見ればすぐに偽造だとわかるようにして、あの女が関わっていないように偽装すれば・・・。


 あの女が、取り巻きをスケープゴートにしようとして、取り巻きたちが裏切った様に見える。


 あとは、あの情報を、あの女に流して・・・。

 同じように違う情報筋からも似たような情報が流れるようにすればいい。


---


 学校が行う予定にしていた、一連の出来事の説明が延期された。

 用意していたプリントに間違いが見つかって、情報に齟齬が生じたというのが主な理由だ。


 学校の周りには、マスコミを名乗る者たちが集まっている。


 マスコに、学校が説明会を開くと連絡が有ったようだ。

 正確には、マスコミ各社に”一連の出来事の説明を生徒に向って行う”とタレコミが有ったようだ。


 不思議な事に、同じ内容だけど、差出人が違っている。

 内容が同じだった為に、マスコミはお互いに確認してから学校に集まった。特ダネは拾えないかも状況だが、他のマスコミに出遅れるのは問題だと考えたようだ。


 警察の介入を嫌った学校は、学校の理事に名を連なる人たちに頼み込んだ。

 昼前には、ネット系のニュース記者以外は学校の前から姿を消した。


 マスコミの矛先は、自分たちにガセネタを送ってきた者に向いた。ネットリテラシーやスマホの利用に関してやネット利用の悪影響など、事件とは全く関係がない事を報道している。


 学校側が隠していた。

 いじめの動画がマスコミに流れた。マスコミはすぐに反応した。偽造であるとして、またミスリードをさそう報道を開始した。

 しかし、偽造でも証拠は証拠だ。警察が動きを見せるのには十分だ。


 前田教諭が学区を辞めてから1か月後。渦中の一人が、昨晩から行方不明になった。

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