第三十五話 サトシ


 俺は、サトシ。

 地球から召喚された勇者の一人だ。そして、レナートの次期国王だ。と、なっている。だよな?


 地球に居る時から一緒に居る。マイが今でも一緒に居てくれるのは嬉しい。


 しかし、しかし、しかし、しかしだ!

 ユウキやヒナやレイヤは、日本に帰った。俺と一緒にレナートに残ってくれると思っていた。


 ディド。テレーザ。ヴァスコ。ニコレッタ。ロミル。イェデア。レオン。フェリア。パウリ。イターラ。オリビア。ヴェル。たちは、レナートに残ってくれた。俺を支えてくれる。


 地球に戻った者たちも、やるべきことがあって地球に戻った。解っている。ユウキがやりたい事も話を聞いて納得している。俺も手伝うと言ったが、ユウキだけじゃなくて、マイにもヒナにもレイヤにも反対された。

 俺は、レナートに残って、皆が帰ってくる場所を守るように依頼された。


 俺にしかできないことだと言われた。

 確かに、俺は次期国王だ。継承位一位を持つセシリアの婚約者だ。マイは、正室二位として一緒になる事が決まっている。日本に居たら認められなかった話だ。俺が、マイもセシリアも好きだと告げた事から、決まった事だ。後悔はしていない。


 しかし、この決定で俺は日本に戻らない事も決まった。

 国王として覚えなければならない事が多いからだ。最初は、セシリアが女王に即位することに決まりかけていたが、現国王が俺を指名したのだ。


「サトシ!」


「ん?オリビアとヴェル?どうした?」


「あぁユウキに呼ばれた。向こうで、リチャードとロレッタの件が動くようだ」


「わかった。お前たちだけか?」


「いや、マイも都合が良ければ連れてきて欲しいとメッセージが添えられていた」


「え?戦闘があるのか?それなら」


「あぁサトシは、セシリアの護衛として残ってくれたら嬉しいと書かれていた」


「え?護衛?なんで?」


「お前・・・。聞いていなかったのか?」


「ん・・・。あぁぁぁ。あの事ね。覚えているよ。あれだよな。そうだった。忘れていない。大丈夫」


「サトシ。お前。頼むぞ。最大戦力だから、お前がセシリアの横に居るだけでも十分な抑止力になるのだからな」


「解っている。解っている。ユウキとマイが話していた奴だろう?」


「はぁ・・・。違う。テレーザが持ってきた情報だ」


「え?」


「やっぱり。覚えていないな。教国の連中が暗躍しているだろう」


「・・・。ん?あぁぁぁ思い出した!あの暗殺とテロ行為しか行わない迷惑な自称宗教国家!」


「サトシ。頼むぞ。お前は、国王になるのだから・・・。その率直な所は、大切だけど、腹芸の一つでも覚えてくれよ」


「わかった。わかった。それなら、マイが地球に戻っている間、セシリアはどうする?」


「サトシ!だ・か・ら。お前に・・・。皆が、お前に頼んでいる」


「え?」


「国王にも、王妃にも、マイにも、当人のセシリアにも確認しろよ」


「え?は?」


「あぁマイには、ユウキが詫びのメッセージを送っていたから大丈夫だ。国王と王妃と当人には、お前から伝えろよ」


「ん?だから何を?」


「本当か?本気で?お前・・・。ユウキが心配するわけだ」


「ん?何を言っている。なぜ、ユウキが心配する?」


 オリビアとヴェルはお互いの顔を見て、俺を呆れた表情で見つめて来る。

 説明してくれればわかるぞ。


 ユウキも心配をしすぎだと思う。これでも、国王になる為に、勉強もしているし、宰相から”筋”がいいとまで言ってもらえている。すぐには無理だけど、ユウキたちの”やりたい事復讐”が終わるころには、国王になっても問題ないと言われている。


「サトシ。今、セシリアは誰が護衛している?表向きの話だ」


「ん?表向きは、ディドとテレーザが組織した近衛だろう?そのくらいは解っている」


「そうだな。それで、実際にセシリアを護衛しているのは?」


「マイだ。俺の婚約者同士で一緒に居た方が、近衛が守りやすいという理由をユウキが考えて、マイとセシリアは常に一緒に居る」


「そうだな。実際の護衛は、マイだ。守る力で言えば、マイはサトシ。お前、以上だ」


「そうだ!マイはすごいからな。俺の聖剣でも、全力の攻撃を正面から受けて防げるのは、マイだけだからな!」


「はい。はい。そうだな」


「なんだよ」


「そこまで、解っていて、なぜ解らない?マイの結界に相当するのは、聖剣による聖域の展開だろう?」


「だから”何”を?」


「マイが、ユウキを手伝うと言っている」


「うん。マイにも、関係がある事だから当然だよ。俺が行って、まとめて始末してもいいけど、ユウキは全部を奪いたいらしい・・・」


「ユウキの事は、今は関係ない。マイがレナートから日本に戻る。その間は、誰がセシリアを守る?」


「え?俺?」


「そうだな。ほら、答えまで後一歩だ」


「え?なんだよ。教えてくれてもいいだろう?」


「サトシ。お前、少しは考える癖を付けろよ」


「考えているよ!」


「・・・。あのな。サトシ。マイの結界は、確かに優秀だけど、弱点があるよな?」


「弱点?あったか?」


「なっ・・・」


「あぁぁぁ。ユウキが言っていた奴だよな。弱点ってよりも、制限だよな?」


「はぁ・・・。まぁそうだな。それは?」


「魔道具にできないのだろう。だから、マイはセシリアと一緒に居るのだろう?」


「そこまで解っていて、なんで考えられない?ユウキは、最初に指示してきたぞ?」


「ユウキが?そりゃぁすごいな。さすが、ユウキだな。どこまでも、深く、それでしっかりと考えてくれる。うん。さすがユウキだ。オリビア。結局・・・。それで?」


「おいおい。考えるのは、拒否か?」


「拒否はしない。でも、人には向き不向きがあるだろう?」


「そうだな。サトシには、サトシにしかできない事が沢山ある。今回も、その中の一つだ」


「そうだ!さすがは、オリビア。それで?」


「・・・。まぁいいか・・・。サトシ。マイは、セシリアと常に一緒だよな?」


「そうだね。昼間に、地球に行ったり、打ち合わせが入ったり、離れる事があるけど、その時には俺が側に行くよ?」


「そこまで、解っていながら、本当に、お前は鈍いな」


「”鈍い”は酷いと思うぞ?自覚は・・・。少しはあるけど・・・」


「自覚があるだけ”まし”か・・・。あのな。サトシ、マイが地球に行くのは、一日や二日じゃない」


「そうだろうね。ユウキが呼んだのなら、1ヶ月か2ヶ月くらい?」


「そうだな。その間、セシリアの護衛は実質的にはお前だけになる。ヴェルもテレーザも・・・。他の女性陣も、呼ばれている。全員で向かうことはないが、予定が不確かな状況になって、護衛に入る予定は組めない」


「うん。それは聞いているよ?え・・・。あっ!俺が、セシリアと四六時中一緒に居る?風呂は?我慢は無理だ。寝室は?あぁぁぁぁぁ」


「やっと気が付いたか?教国が暗躍しているから、セシリアを独りにするのはダメだ」


「わ、わ、解っている。ふへ」


「サトシ。気持ちが悪い。いいか、お前はセシリアを守り切れ。それがユウキのマイの俺たちの願いだ」


「わ、わかっている!大丈夫だ!守る!」


 何か、オリビアとヴェルが言っていたが、俺の耳には届いていない。

 セシリアと一緒。魅惑的な言葉だ。マイも一緒ならもっと嬉しかったが・・・。


「あっ!そうか、それで国王と王妃に・・・。マイには、ユウキが説明してくれている?そうなると、あとはセシリア本人?」


 難題だ。

 王妃は、大丈夫だ。早く孫を見せろと言っている。俺たちが広めた風呂も、俺とセシリアとマイで入るように進めるような人だ。問題は、国王とセシリア本人だけど、多分だけどマイがセシリアに説明をしているような気がする。突き放すような事をいいながら、ユウキもマイも事前交渉はしてくれている。俺がしっかりとセシリアに向き合って話をすれば大丈夫だと思える。

 そうなると、最大の難関は国王だな。

 あの・・・。セシリアとアメリア溺愛国王が簡単に認めるとは思えない。

 俺を国王にすると言い出したのも、ユウキからの説得が行われたという側面もあるが、セシリアが女王となると、暗殺に狙われる可能性が高まるという”セシリア”主体の理由だ。マイを第二正妃にするのを認めたのも、当時存在していた反発貴族たちへの牽制のためだ。”セシリア”の命が狙われないように・・・。だ。


 国王の説得が俺にできるのか?

 違う。違う。マイの作戦参加が必須なのだから、国王の説得が必須だ。ユウキの”やりたいこと”をサポートするために、失敗がゆるされないミッションだ。そして、ユウキから託された、俺の役目だ。それに、セシリアの命がかかっている。


 認めてくれるはずだ。一緒に風呂に入る事や、一緒の寝室で寝る事を・・・。

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