第三十四話 作戦


 ミケールがユウキとの会談を終わらせて、部屋を出た。

 当初の予定通りと言っても、ユウキは契約が成立する可能性は、五分五分だと考えていた。実際に、ユウキが提案した内容は、荒唐無稽だと言われてしまうような内容だ。


「ユウキ!」


 レイヤが部屋に駆け込んできた。


「レイヤ。落ち着きなさいよ」


 カップを片付けながら、ヒナはあきれた表情をレイヤに向ける。親しい人にしか向けない表情だ。


「ヒナ。そういうけど・・・。作戦の可否が決まるのだぞ?」


「はぁ・・・。レイヤ。貴方まで、サトシと同レベルになってしまったの?」


「あ?」


 レイヤは、ヒナから”サトシ”と同レベルだと言われて、傷ついたフリをして、怒ったフリをする。

 ようするに、じゃれているだけだ。それがわかっているので、ユウキも気にしないで、新しく入れられたインスタントコーヒーを飲んでいる。


 ヒナは、レイヤをあしらいながら、レイヤが持ってきた魔道具をテーブルの中央に設置した。


 置かれた魔道具を、レイヤが設定する。お互いにじゃれつきながらも、作業を行う手は止めないのはさすがだ。


「そうでしょ。ユウキは、作戦の一つだと言っただけで、ダメならダメで、別の作戦があると言っていたわよね?」


「わ、わかっている。でも、難易度が上がるのだろう?」


「そうね。ユウキ?」


 ユウキは、二人のやり取りを聞きながら、懐かしい気持ちになっている。これから、行う自分の復讐に巻き込んでいいのか?

 何度も、何度も、何度も、繰り返して考えて、口に出して・・・。仲間たちに問いかけた。

 皆が、ユウキの復讐を認めて、助けると宣言している。その過程で、死んでしまっても大丈夫と宣言をする者まで存在している。


 そして、本来なら二人のやり取りをユウキだけが見るのではなく、そこには一人の少女が居たことを想像して、頭を降った。


「あぁ悪い。考えていた。レイヤ。最良の結果だ。それに、難易度が上がるのは、いつものことだろう?」


 レイヤとヒナは、お互いの顔を見て、ユウキが言っている”いつものこと”を咀嚼している。

 そして、目線が交差して笑い出した。


「そうだね。確かに、いつもの事だね」「あぁ無理難題。無茶ぶり。それに比べれば、多少の遠回りくらいかまわない。それに、今回は安全ではないが、楽なミッションだろう?」


「あぁ。楽勝とは言わないけど・・・。俺たちは、今までも・・・。多分、これからも、同じようにやっていくのだろう」


 ユウキの言葉通りに、”俺たち”には仲間がいる。自分一人ではない。そして、まだまだ道半ばだ。越えなければならない山は高く、谷は深い。


 ユウキの言葉で、ヒナとレイヤはじゃれ合いをやめて、ソファーに座る。テーブルの中央に置いた魔道具が5個の光を灯しているのを確認する。


「それで?」


「まずは、お姫様を国に送っていく」


「おぉ?」「レイヤ。本当に、サトシと呼ぶわよ?ニュースを見ていないわよね?」


 レイヤは、首を傾けて、ユウキに説明を求める。

 レイヤの態度に最初に反応をしたのは、ユウキではなく、正面に座っていたヒナだ。


「見ているし!サトシと一緒にするな!」


 ヒナの言葉で、レイヤがむきになって反論する。


「夫婦漫才は後にしてくれ、他のメンバーは?」


 ヒナは、レイヤの反論を封じるために、物理的な方法を用いた。


「大丈夫。聞いているわ」


 ヒナは、テーブルの上でレイヤが設定した魔道具を指さしている。

 光っているのを確認すると、ユウキは納得した表情をヒナに向ける。


 ユウキは、魔道具に向かって話しかける。

 主語が抜けているが、内容は説明が終わっているので、大丈夫だ。サトシも、作戦の内容はしっかりと把握している。


「近いのは、モデスタとイスベルか?」


 魔道具が光る。

 二人からの返事が表示される。


”是”


 決められたパラメータを与える事で、簡単な返事がわかるようになっている。ユウキが、返事を確認して話を続ける。


「ニュースを見ていない。レイヤは別にして、状況は把握しているだろう。知らない者は、ヒナに聞いてくれ」


「ユウキ!」


 ヒナが抗議の声を上げるが、ユウキは話を続ける。

 夫婦漫才で貴重な時間を無駄にしたヒナとレイヤを揶揄う意味もあるが、実際にペアのどちらかは内容を把握しているだろうと考えていた。


 レイヤが、ヒナの”暴力”から抜け出して、ソファーに座りなおして、ユウキに質問をする。


「それで、ユウキ。作戦は?」


 ユウキへの質問というよりも、確認に近い。ヒナとレイヤ以外には、作戦案をまとめた資料が配布されている。

 そして、皆がユウキの性格を正しく理解している。


「一番、難易度が高い物を選ぼうと思う」


 ユウキは、ヒナとレイヤが座っているテーブルの上に資料を滑らせる。


「ん?お姫様を送るだけじゃないのか?」


「送るだけなら、自衛隊でもできる。俺たちには、俺たちにしかできないことをやろう」


 実際に、自衛隊が行うのは不可能だが、レイヤ以外の皆はユウキが言おうとしている内容が理解できた。自衛隊が行うのには、越えなければならない壁が存在しているが、実力では問題はない。

 だから、自分たちにしかできないことを行おうと考えている。


「俺たちにしかできない事?」


「あぁ」


「それは?」


「紛争を終わらせるぞ。お姫様の方に正義があるとか青臭いことは言わない。俺たちは、お姫様に味方する」


「傭兵か?」


「そうだ」


「移動は?」


「モデスタ。お前のポイントから、お姫様の国まで、1,000KMくらいだよな?」


 魔道具が光る。

 返事は、”是”だ。大凡、1,000KMで正解だ。


「ポイントから、ヴィルマのスキル飛翔で移動できるな?」


 こちらも”是”なので問題はない。


「まずは、俺とモデスタでポイントを作る。ヴィルマとお姫様の国に移動する。その後で、転移で連れていく」


 ユウキの転移には、”ポイント”が必要になる。

 物理的な目印を置くわけではなく、認識できるたしかな場所が必要になる。便宜的な意味合いで、”ポイント”と呼んでいる。


「いいのか?」


「大丈夫だ。お姫様とミケールには、ギアスを刻んである。ギアスの内容は、先方にも伝えてある。破るとは思えない」


 悪い方に解釈できるように言葉を選んで伝えてある。

 実際には、破ったとしても、ペナルティーが発生するような事態にはならない。しかし、


「そうか?」


「あぁそれに、破られても困らない」


 ユウキたちは、隠している情報はあるが、暴露されても困る類のものではない。困るのは、”異世界に初めて訪れるときにスキルが付与されてしまう”ことが知られてしまうことだ。しかし、これもユウキがいないと実行ができない。そのうえ、スキルの発動時に、タイミングを見計らって紛れ込んでも”地球からフィファーナ”の移動はユウキが認識しないと転移が行えない。


 従って、ユウキたちに知られて困る情報は、存在しないと言い切っても差し支えない。


「そうだな。わかった。俺とヒナは実動部隊を組織すればいいのか?サトシたちを呼ぶのか?」


 レイヤの提案に、ユウキは頷いていてから考え始めた。

 答えが出るのに、それほどの時間は必要なかった。


「うーん。辞めておこう。奴らが来たら、派手になりすぎる」


 レイヤは、ユウキの返答を聞いて、少しだけ”ぽかん”という表情をしたが、笑いそうになっているヒナを見て納得した。


「たしかに・・・。こっちのメンツだけで、対応は可能だ」


「そうだな。ニュースの内容だけだと、わからないことが多い。現地の状況次第で最終調整をしよう。ダメそうなら、最終兵器サトシ&マイを投入しよう」


「わかった。情報収集が先だな」


「もちろんだ。レイヤ。大丈夫か?本当に、レイヤか?サトシじゃないよな?」


 ユウキの戯言に、レイヤが大きく反応した事で、部屋が笑いに包まれる。


「ユウキ。作戦開始は?」


「お嬢様の状況次第だが、3日後を考えている」


 ユウキが言っている。3日後には大きな意味はない。ユウキたちの準備はすぐに終わる。

 覚悟を決めてもらうのに必要な時間が3日程度だと考えている。

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