悪魔の契約
「さあ、これで準備は整った」
そう言い博士は怪しげな魔方陣の上に立った。博士の回りを囲むようにカエルや小鳥の死骸がおかれている。博士は、悪魔を今呼び出さんとしているのだった。
「本当にするんですか。そもそも研究室に悪魔は来るんですか?」
助手がなかば呆れた様子で伺うが、博士はお構いなしに計画を続ける。
「おお!悪魔よ!我が元に現れたまえ!」
ありふれた、何の捻りもない掛け声を博士が言うと、研究室全体を包み込むような量の煙が魔方陣から吹き出した。助手が窓を開け、煙を晴らすと、博士のすぐ横に黒装束の男が立っていた。
「私は悪魔だ。お前が私を呼び出したのだな?」
その悪魔は博士を睨み付けた。しかし博士は動じず、いつも通りに話を進めた。
「悪魔よ。お前はいかなる私の望みを叶える程の力を持っているのだな?」
少々わざとらしい演技だと助手は思った。
「勿論だとも。お前の望みを言うがよい」
「私を三百歳まで生きさせてくれ」
突飛かつバカらしい願いに助手は戸惑い、止めるよう指示した。
「止めてください博士。相手は悪魔ですよ、どんな対価を払わされるか…」
「その通りだ…。そのような望みであれば容易い物だが、勿論対価を払ってもらう必要がある。その対価とは、お前にとってかなり都合が悪いものになるが、良いのか?」
脅すように問いかける悪魔にたいし、博士は平然とこう言った。
「構わないさ」
「分かった。…では、行くぞ」
悪魔は両手を博士の方に向け、掌から不思議な光線を出した。博士は棒立ちのまま、一歩も動くことはなかった。
「さあ、これで終わりだ。対価を払ってもらおう」
悪魔が対価を言おうとすると、博士はそれを止めるようにこう言った。
「…いや、今かけたお前の魔法は本物か?私に何の意味もない光線を浴びせ、対価を払わそうとする詐欺なのではないか?光線を出すだけなら私にも出来る」
それは博士の宣戦布告であって、一つの挑発だった。
「では何を見せればお前に力を証明できる」
悪魔は博士の挑発にのった。博士は次々と悪魔に要望を言った。
「お前は小さくなることが出来るか?」
「勿論だとも」
悪魔はしゅんと縮み、小人のようなサイズになった。
「では大きくなることも?」
「当たり前だ」
今度は博士の二倍近くの大きさになった。
「人そっくりになれるか?」
悪魔の体が歪み、博士そっくりになった。
「では最後だ。どんな攻撃も受け付けない、お前の思う最強の物質になってみろ」
「良いだろう」
ぼわんと悪魔の身体中から煙が出たあと、悪魔は黒くて硬い球状の物質になっていた。博士が持ち上げようとしても、押して動かそうとしても、その物体はピクリとも動かなかった。
「ハハハ。どうだ、動くまい」
「助手!」
博士が大きな声でそう言うと、助手は全体重をかけロープを引いた。ロープは下がり、博士の居る床がパカリと開き、一人と一つの物体は下へ落ちていく。着水の音を聞くと、助手も続けて落ちに行った。
下には大きな水槽が待ち構えており、そこに博士たちは落ちていた。博士と助手は、難なく水槽の縁から這い上がり、床に飛び降りた。しかし悪魔はその物体になったまま水の底で沈んでいる。水越しに声が聞こえた。
「貴様ら、卑怯だぞ!」
悪魔は必死にそう言い、喚き続けた。
「やっぱり効果はあるんですね」
「当たり前だ。悪魔も居るんだったら神も居る。であれば神の祈りがこもった清水も、効果があるに決まっているのだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます