長寿の薬

 今この会場は、世界中から様々な人が集まっている。それは皆博士の講演を聞くため。ではなく、長生きしたいからだった。博士は世界初の長寿の薬を開発した。今までの夢物語が現実になると聞いて、懐疑的になる人もいたが、大金をはたいてでも来たくなり、大金をはたいてでも、その薬が欲しくなる者も多くいた。人々は指定された席に座り、博士を待った。依然として騒がしい話し声は続いていたが、目の前のモニターから光が照らし出されると、その話し声はピタッと止んだ。会場の証明が落とされ、モニターだけが光る。そしてしばらく経ち、横手から博士は現れた。皆の注目を集めた博士はマイクの電源をつけ、こう言った。

「本日は皆様。お忙しい所お集まり頂き、誠にありがとうございます。皆様にお見せするのは、ご存じの通り長寿の薬。さぞ楽しみにしていたでしょう。こちらです」

博士が見せびらかすように右手を横に振ると、助手が長寿の薬を手に持ち、掲げた。多くの人が目を輝せた。

「お見えになるでしょうか?これが長寿の薬です。今からこの薬の成分など、細かい説明をします。注意事項もあるのでしっかりお聞きください。ではまずモニターを…」


 一時間にも及ぶ薬の説明がようやく終わり、最後に注意事項を博士は言った。

「…と言うわけです。なので、この薬は必ず朝の七時から八時に一回飲み、夜の九時から十時の二回。特に夜は就寝前に、朝は起床時に飲むと体によく吸収されます。『飲む時刻』これが注意事項です。では、これで終わりとします」

博士が会場から去り、会場の証明がつく。まばらに人々は立ち、背伸びをした。しかし今日の本題は、講演を聞きに来たわけでは無く、長寿の薬を買う事である。講演後、博士の回りにおびただしい数の人が押し寄せた。博士は落ち着いた様子で一人一人に長寿の薬を売りつけ、数時間かけその人だかりを散らせた。


 その後、研究所で博士が集まった金銭を数えていると、助手が話しかけた。

「ところで博士」

「ん?なんだね」

博士は金勘定に手一杯で、聞いてはいるものの、まともな問答をするつもりはないようだった。

「あの薬は一体、何ですか?あんな薬品聞いたことも無いですけど…」

不安そうに助手が言うと、博士は手を止め、ニヤリとし、こう言った。

「あの薬に意味はない。ただのビタミン剤だよ。結局大切なのは『早寝早起き』って言うだろう?それだけの話だ」

驚愕とする助手をよそに、博士は再び金勘定を進めた。

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