サムエの動く城

小欅 サムエ

こんな私ですが、どうぞよろしく(フィクションです)

 仕事や授業中、はたまた通勤・通学の最中でもよい。その、ふとした空虚な時間に何を思い浮かべるか。それが私にとって一つのリラクゼーションタイムであった。


 学生時代で言えば、授業の合間にある数分程度のラグタイム。あの時間、私は意味もなく席を外し廊下に出て、行き交う他の生徒たちを眺めていた。

 無論、友人と会えば会話もするし、教師と会えば挨拶くらいはした。だが、私の目的はそれではない。他者がどのように活動し、どのように仲間内で会話を繰り広げるか。それを知りたかったのだ。


「あー、昨日エリと話してたんだけどさ、やっぱ付き合ってるって」

「マジ? バカだね、エリ。あいつ他校に彼女いんじゃん。二股だよそれ」

「だよねぇ。どうしよっかな」


 と、このような会話が、廊下で堂々と繰り広げられるのだ。それを、存在感を消しつつ聞いていた私は、小さくほくそ笑みながら教室へと戻るのだ。

 もちろん、そのエリとかいう女子に告げ口するためではない。二股をかけているという男に、善悪について講演するつもりもない。

 ただ私は、そういう人間関係を知り、知見を広げたかっただけである。どのようにして女子高生が交友関係をつかみ、仲間と称する相手を陥れようとしているかを。

 女子高生の世界ほど、狡猾さが求められる世界はない。それ故に、その世界から学ぶことは数多い。男子高校生の世界では、とりあえず下ネタでも言っておけば人気が取れるのだ。まったく住む世界が違うといえよう。


 通勤・通学においても、面白さという観点では同じである。特に、電車内での他者の会話ほど脳内を刺激するものはない。


「この前さ、主任がヅラ落ちちゃってさ!」

「マジで!? チョーウケんじゃん!」

「だよな。最初っからバレバレだったけど、マジでツルツルで笑ったわ!」


 と、このようなくだらない会話の中でも、私の頭はフル回転する。

 その上司は、もしかしたら抗がん剤などの影響で毛髪が抜け落ちてしまっていたのではないだろうか。そうであれば、彼、もしくは彼女にとって絶望的な場面であったのだろうな、と。

 そして、それをまったく理解しようとせず、こう小馬鹿にできるというのは、なんと人間の浅ましいことか。

 そんな妄想を、まったく無関係である私は常日頃から広げている。それこそ、休む間もなく年中無休で所かまわず。居室だろうが、出先だろうが、そんなことは関係ないのだ。


 そう、私にとっての居城とは、今現在私の脳がある場所である。ゆえに、私『小欅 サムエ』の城は動いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サムエの動く城 小欅 サムエ @kokeyaki-samue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ