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 面白い光景が見られた。楽器のベースが途中、なんらかのトラブルで鳴らなくなりそれに気づいたメンバーが楽器を一旦、袖にいるスタッフに預けた。

 楽器が戻ってくるまでの間、何をしたかというとアドリブとはいえお世辞にも上手いとはいえないダンスだった。それはかなり昔に流行りだしたパラパラを彷彿とさせた。

 ギャグで、笑わせるためにしているとしか思えないダンスとは対照的に、他のメンバーは全くそれに影響されていないかのようにクールな表情で演奏を、歌い続けていた。

 爆音でかき消されているもファンは間違いなく笑い声をあげていた、なんとかこらえようと下を向いて耐えている人も。本人は天然、大真面目にやっているであろうからなお面白かった。

 退場する人、ドリンクを受け取る人でフロア内はごったがえした。あの珍場面のことを誰もが話題にしているので周りの声がいつもより大きい。

 その人混みの中、一人ひとりの顔をじっくり見るリョウ。いつもだったらアルコールを一杯決めるところだったが、今日は水のペットボトル飲料の方が早く受け取れそうだったのでそちらにした。

 預けた荷物を受け取る時にもみじと会って軽く挨拶をしたが、リョウは知らないがいつも一緒にいる人も傍にいて、直ぐに別れた。

 外に出る。涼しい風が吹き熱くなった体にはちょうど良かった。周辺で立ち止まっている人の顔を確認する。やはりもう帰ってしまったのか。或いはまだ中に。

 ライブハウスから少し離れて、曲がり角で立ち止まり右を向いた時に、居た——

 必死に探していた彼女が、建物の外壁にもたれていた。

 下を向いている彼女は、まるで自分を待っていてくれたかのように映った……。



 まさか来ているとは思わなかった。リョウはあまり遠征はしないので、二日後に東京公演を控えているにも関わらずこの名古屋公演にも来るとは想定していなかった。

 リョウはあの瞬間、私だと気付いたであろうか、もしも気付いたなら……志保はあることを試してみることにした。

(私を見つけてくれるかな)

 最近は全くチェックしていないツイッターを久しぶりに開いてみる。今日のツイートまでいくのにかなり時間がかかった。

 今日のツイートは流し気味に読んでみると、なんとリョウはRicoから今日のチケットを譲ってもらうことになっていたと知る。

 Ricoも自分なりに行動に移していた。きっと一緒にライブを見ようという意図なのであろうがあのリョウの様子、すれ違った時間を見る限りかなりギリギリに来ていたのは間違いがない。

 Ricoも今日は朝から少しついていないらしい。どうしてこういう時に限って上手くいかないのか、他人事ながら痛いほど気持ちが分かる。

 リョウはライブ後どういう行動に出るだろう? Ricoのところに行きチケットのお礼、一緒に感想を語り合う? それとも……。

 志保は根拠はないが確信めいたものを持っていた。

(きっと私を探してくれる)


 ライブ終了後、ドリンク交換もしないで足早に会場を出る。あまり離れてもかわいそうなので曲がり角の所で建物の壁を背に待ってみることにした。そして、俯きながら十分ほど待っていた時であった。

「あっ」

 やや力強く発した声が聞こえたのでその方向へ視線を移した。

 リョウであった。思わず安堵するような笑みがこぼれる志保。


 ——私が好きになった人は、ここぞという時には期待通りの行動をしてくれる——


(だから好きになったんだよね、きっと)

「見つけた、志保さん、お久しぶりです。どうしたのですか? 最近、全然ツイッターにも浮上しないで」

「うん。色々とあって」

「色々ですか。とりあえず生存確認ができて良かったです」

 志保は「なにそれ」と言いながら笑い声を上げた。

 リョウは根掘り葉掘り聞いてくることはしなかった。少しは話しても良かったがリョウもなんとなく感じる、踏み入れてはいけない線というのをわきまえているのだろうと感じた。

 ただ、もう一度会えたことを喜んでいるだけのように見える。望んでいたのはそれだけ……。

 それでもいい——二人は今日のライブについてしばらく話し込んだ。初めて出会ったあの日のように。

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