4-4
音楽のライブや各種イベントというのは遅くても一年前にはライブハウス、会場を押さえて実施される。発表は大体、四、五ヶ月前から告知してファンにはこの日を空けてもらうよう促す。
そんな先のスケジュールが埋まってしまうからか、時の流れを余計に早く感じてしまう。次のツアーが時期的に今年最後のライブになるであろうという予想をしてしまうのだから。
今年最後、という言葉が春という新しい年の始まりの季節に出てくることに気がつき苦笑いもしたくなる。
そんなツアーがあと一週間後に始まる。Ricoは志保がツイッターに浮上しなくなったのは全て自分のせいだと思い込んでいた。五月に送ったあのメッセージが原因で。
なぜ気に障ったのか? 自分を利用しようとしたからか、それよりも納得がいくのは志保も……。もしもそうなら志保と今までのような関係を続けるのは難しいと思った。
よりによって協力を求めたのが恋のライバルなら。
なんでこうなってしまったのか、ただ最初の頃のようにその特別な日を楽しむだけの方がずっと平和であった。
これは欲張ってしまった罰なのか?
自分と同じライブに行くのが好き、しかも同じバンド、その共通する趣味を持ち、そして恋愛対象としても見られる……そんな異性と付き合いたい夢を求めてしまったが故の……。
あの雨の日、ライブ翌日にリョウのツイッターアカウントに絢香からダイレクトメッセージが届いていた。それを読んだリョウは驚愕する。
『えっ、じゃあ昨日のライブは来ていたってことですか?」
『そう、それで会いたいとは思っていたらしいけど、なんか気持ちの整理がつかなかったとか言って結局、帰ったらしいの』
『気持ちの整理ってどういうことですか?』
『そんなのわかんないよ』
志保の胸中が読めず苛立ち、という感情さえわいてきた二人。
『あぁ〜なんか僕たちって同じ趣味を持っているってことですごい仲良いって思ってましたけど、もしかしたらそうでもないのかもしれませんね。こうして心配な時にその原因が分からないんですし』
『そうだね。本当に仲が良いならこういう時に助け合うものなのに、それができないわけだし』
『以前もあったんですよね〜ネット上では毎日のように交流していたのに、突然いなくなっちゃって、そのまま関係が途切れたという事が。やっぱりネット上の付き合いなんて、そんなもんなんですよね』
『でも、私達はこうして実際に会っているわけだし、もうちょっと進んだ関係でしょ?』
『そう思いたいですけど現に今、その人が困っているかもしれないのに何もできないし、向こうも何も話してくれないとなると、思ったより薄い関係なんだと思いますよ』
思ったより薄い関係——この言葉に絢香は何か希望が断ち切られたような気がした。少なくとも自分が思い描く関係になるのは想像以上に実は困難なことだと思い知らされた。
ならもっと濃い関係になるには? それを考え巡らすと絢香にはその勇気が無いことに気が付く。
『なんか私達って不思議な関係だね』
ふらつきながら歩く体には支え、寄り添える人が欲しかった。
勝手に体が、手が動く。一つの習慣のように志保はライブ通いはどんな事があってもやめられないと悟った。好きな音楽を聴いて、そしてみんなに会う。
そこでなら身を委ねる事ができる——だがそのまま離れることができないであろう自分が容易に想像できた。
直ぐに離れなければならないと思うと、もしかしたら涙を流してしまうかもしれない。そんな想いをするくらいなら最初からそのまま、ふらついたままでいて、それに慣れてしまうのも有りかもしれない。
求めているのは永遠だ。永遠に好きな空間に身を沈めて写真におさめたように、満たされた顔のまま時が止まってほしい。それが叶わぬなら……。
リョウと絢香が一緒にいるのを見た時、一気にこの想いが加速して思わず逃げてしまった。今のままだと二人に迷惑をかけてしまいそうで。
志保は誰にも見られないように涙を流す。
この涙には別の意味も含まれているかもしれない、そう思うと余計に止まらなくなった。
リョウの傘に絢香が一緒に入っている、その姿を見ただけで胸が締め付けられた。
とても直視できない光景、そして邪魔してはならないとなぜだか思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます