出会いと別れ

あきかん

第1話

 グスコーブドリには、妹がいたらしい。

 いたらしい、というのは記憶が曖昧で、そもそもグスコーブドリの伝記は読んだことがない。なら、何でこんなことを知っているかと問われれば、『プラネテス』という漫画にこの話が出てきたからだ。

 もちろん、グスコーブドリの伝記の概要は知っている。アニメで昔見たことがあるからだ。たしか、貧しい家庭に生まれたグスコーブドリが、大学で火山だったか天気の研究をして、最終的に己の身を鑑みずに村だか町だかを救った話だったと思う。

 グスコーブドリについては、何か悲しい話だったと記憶していた。彼の献身性は、己を考慮に入れていない。もしくは、自他の区別がついていなかったのかもしれないが、幼いながらにそんな気持ちを抱いたことだけは覚えている。

 どうしてこんな話を始めたかといえば、世界との別れを経験しなかった人間の、1つの到達点がグスコーブドリだと思うからだ。他者と知人の価値の差がない。己と世界の境界が曖昧であるかのような、一種の全能感はグスコーブドリに通じる所があるだろう。

 彼は世界のために身を投げ出した。一切の後悔もなく。それが正しい事だとは思えない。ある種の幼さであると今では思う。

 プラネテスの漫画では残された妹の話が主題であった。妹は彼を心配したのであろう。妹は彼に帰ってきて欲しかっただろう。妹は彼を止めたかったのだろう。しかしながら、彼はそれを微塵も考慮せず、世界のために身を投げ出した。その絶望たるや、筆舌しがたい。彼と世界、そして私の前に広がる隔絶した何かを見せられて、私は絶望することしかできない。

 世界に別れを告げた我々に、彼を理解する事はもはや不可能である。

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