夏の思い出

@kmr432

夏の思い出

毎年、セミの声を聞くたびに思い出す、淡く切ない僕の初恋。

あの子と出会ったのは、小学校1年生の夏休みで母方の祖父母の家に遊びに行ったことがきっかけだった。

祖父母の家はかなりの田舎で、コンビニやスーパーマーケットなんてものは車で30分かけないと行けなくて、近場に直売所があるくらいだった。

当時はゲームさせてもらえなかったし、外で遊ぶのも好きだったから、祖父母の家に着いてから上機嫌で探索に出かけた。

そんな田舎生活が一週間経ち少し飽きてきた頃、山の麓で遊んでいた僕の背後から急に声をかけられた。

「ここらへんの子じゃないよね?どこからたの?」

僕は不意打ちに飛び上がりそうになったが、その声は女の子だったから、格好をつけるためになんでもないふうに振り返り、祖父母の家は大阪の田舎だったから

「大阪の都会の方」と答えた。あの子は見たところ同い年くらいに見えた。

すると女の子は「ふーん、私ひとりで暇だからさ、一緒に遊ばない?」と誘ってくれたので、喜んで承諾した。

それから夏休みが終わるまで、彼女に案内されて泳げる川、釣りの穴場、カブトムシが集まる場所など色んな場所で遊んだ。

時には神社で涼みながらアイスを食べて談笑したりしていた。

夏休みの間ずっと一緒にいたし、普段女の子と遊ぶ機会もあまりなかったから、必然的に彼女に好意を抱いた。

夏休みも終わりかけのある日の夕暮れ、遊び疲れた僕らは神社の木陰で涼みながら話していた。

祖父母の家に留まるのも後少しだったから、僕は彼女に好意を伝える決心をし、「○○のこと好きやねんけど○○はどうなん?」と尋ねた。

彼女は「わたしもすきやで」と照れながら答えたくれた。

それから夏休みが終わるまでの少しの間、互いの好意を理解しつつ遊ぶのは気恥ずかしかったが、とても甘酸っぱく楽しい思い出になった。 そしてまた来年も遊ぼうと約束した。

その次の年、また夏休みで祖父母の家に行くことになり、また彼女に会えることを心待ちにしていた。

いつも彼女と遊んでいたいろいろな場所に、彼女を探しに行ったが会えなかった。祖母に尋ねてみると、親の都合で彼女は引っ越してしまったらしい。

それを知った僕は「そうなんだ」と興味なさげに答え、少し暗くなり始めた神社に行き、一人で泣いた。

彼女は今どうしてるだろう。幸せに過ごしているだろうか。そんなことを毎年思うくらい大切な、僕の初恋で青春だった。

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