差別と障害と私

澤村美雨

第1話

「心身症、にしておきましょうか」

 勤務先の医師はそう言った。当時、メディカルクラークとして働き始めたばかりの私は、勤務半年弱で、既にメンタルを病んでいた。

 勤務先は個人クリニックだったが、先生も看護師もスタッフもみな優しい人達だった。

 だから早く一人前になって役に立ちたい、という気持ちから、私は勤務時間外の講習もレセプトチェックも率先して参加していた。

 仕事は楽しかった。最初は覚えきれなかった患者さんも、名前と顔が一致してくるようになるとこちらから「半月ぶりですね、お加減いかがですか」と声をかけられる。そうすると相手も「まあ、覚えてくれたんかね?」と嬉しそうに答えてくれる。


 そんな中で、やはり心ない人はいるもので、医師の指導にすら食ってかかる。そして大概、帰りに私達受付にいるスタッフに毒を吐いていくのだ。

 言葉の毒は、吐き出した方は気持ちいいのだろう。それはそうだ。「毒」を体内から出すのだから。

 でもその「毒」を浴びせられる人は? 浴びせた方は「たかが言葉」としか思っていない。だから繰り返す。そして繰り返し繰り返し「死ね」「役立たず」「馬鹿」「出来損ない」と言われ続け、私は少しずつ心を病んでいった。

 最初は、寝つけないことが多くなった。朝、起きづらいことも増えた。だが当時の私はそれを「怠け」と思い込み、無理を重ねていった。

 クリニックに勤務し始めて三ヶ月が過ぎた頃、私は先輩スタッフの勧めで何度か医師に診察してもらうことが増えた。先輩は「顔色が悪い」と言葉を濁してくれたが、私は「ちょっと眠れないだけです」と答えていた。「今は患者さんいないから、先生に診てもらいなさい」──看護師長にまでそう言われて断れず、診察を受けた。


 医師の質問に素直に答えていたら、徐々に難しい表情になっていった。そして「心身症、ということにしておきましょうか。デパスというお薬を出すから、これを飲んでも眠れないようだったらまた診察しましょう」と言われ、デパスを処方された。

 この時はまだ私に自覚症状がなかったので医師は心身症としてくれたが、実際は双極性障害を患い始めていた。

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