第67話 「お母さん」




「助けてほしい。」

晶が突然、私達4人を呼び出し、こう言いながら頭を下げた。


「顔上げて晶…どうしたの?」

晶の肩を掴みぐっと顔を覗き込むと、下唇を噛み締め…こう呟いた。


「漫画本が販売中止になって…その、理由が」

「うん」

「……ヤクザに、嫌がらせされたからだっていう…噂が立ってる。」


……沈黙。


「…だから何だよ。」

沈黙を破る明人君。

晶は顔を上げ、こう続けた。


「作者が、被害者面して…モデルになった明人と…直樹さんに…色々、批判が来てる。」

「……は?なにそれ…」

呆れたようにそう呟く彩ちゃん。

「批判が来んのはマジでおかしいけど…事実なのか?ヤクザが絡んでるってのは。」

冷静にそう尋ねる智明。

晶は答える。


「色んな人に協力を要請した、その結果…一部に、そういう人がいたのは事実かもしれない。」


……晶…。


「…この前の、智明のストーカーの事…みんなが話し合って、最善の策を考えてくれたの見て。」

「……」

「うちの策は暴力的すぎるから、もっと、違う方法で……解決したくて。」


……晶。

晶が人に頼る方法を覚えたんだ…成長したね晶……!


…でも…方法か。

でもあの時はたしか龍馬君が居たから解決したようなもんだよな…。


「なあ晶、龍馬さんは?」

明人君がそう尋ねる。

すると、晶は首を横に振った。


「呼んでない」

「なんで?」

「……龍馬には聞かせられへん内容になるから。」


……そう、なのか。


「だからと言って…僕達いつも6人で居たのに省くのはちょっと…」

「分かってる、でも今だけはこうさせて、お願いやから…ごめんな、明人。」

「……分かったけど…」


…龍馬君に聞かせられない内容…ヤクザ絡みとか、能力とか、そういう…系統の話かな。

じゃあ彩ちゃんにも聞かせられないよね…なんで龍馬君だけ…?

まぁ、晶にも考えがあるんだろうけど…。


「まず今の状況を整理するね?…晶は、ヤクザに協力を要請した、その結果販売中止にまで追い込めたけど…でも、作者と出版社が被害者面をして、直樹さんと明人君に「ヤクザと関係を持った」と…批判が殺到した…。」

そう言うと、数回頷く晶。


……難しすぎないか?解決策晶くらいしか浮かばないんじゃない?

でもその晶が分からなくなっちゃってるのか。


「一応聞くよ?晶が最初に考えた案って何?」

「作者のリンチ。」

「論外。」


……どう、しようか。

龍馬君に協力要請した方が良いんじゃないの…?


なんて思っていると、彩ちゃんが突然大声を出した。


「朱里ちゃんだ!!!」

「……へ?」

私?

「!せや!考察するタイプのオタク!!」

「ええ?いや突然そんな事言われても…。」

「一話で犯人とトリック当てたことあったよな、朱里。」

「あったけど…それ中学の時の話でしょ?」

「BL小説書くために原作読みまくってにわかから謎の設定追加したって批判来たことあったよな朱里!」

「あったけど…待って智明私のBL小説読んだの?」

「逆に聞くけどなんでそこまで考えられんのに「私に任せて」って言わなかったの?理解できない。」

「明人君まで…でも……ま、まあ、一応考察してみるけど…。」

「来るぞ朱里の考察!!」


なんか盛り上がってるけど、冷静に考えよう。


「朱里!負けんな!!」

「がんばれ朱里ちゃん!!」

「考察するんだからちょっと黙ってよ!!」



…よし。

一番の目的は出版社を黙らせること。

それのためには…鎮火するのを待つか?いつになる?

直樹さんは作家だし、文字で食べてる人だ…評判だったりが直接生活にかかわるような職業だから、出来るだけ早めに鎮火したいよな。

だとしたら……大きな存在に協力を要請した方がいい。

何に?あの出版社と同等くらいの…力とか権力を持つ…。


……。


…あ。


「…晶が炎上に関わってるって知ったら、企業は動かざるを得ないんじゃない?」

「き、企業って……まさか」

「……そう、あの企業だよ」 


沈黙。


「晶が関わってると知ったら能力の話と、自分達の計画が広まるのを恐れて、企業は鎮火しようと必死で動くんじゃない?だから…明人君と直樹さんの保護さえすればそれで良い。」


……沈黙。


「…お父さんがもし、うちが関わって…批判を集めてるって知ったらどうなるかな。」


口を開く晶。

……晶のお父さんが、晶が炎上沙汰に巻き込まれて、企業に利用されて……何もかもを使って動いてると知ったら。


……少し、怖いことになるかもしれない。


シン、と静まり返った時、私達の顔をじっと見つめていた明人君が口を開いた。


「当事者の僕の意見いかが?」

「欲しい」

「僕は、バッシングは怖いけどあの事件のおかげでもう慣れてるし、悪いのは100%作者と出版社であって僕じゃない。」

「……」

「だからいくらディスられても痛くも痒くもない…それに晶は僕を思ってやってくれた、その思いに嘘偽りはないだろうし、そう信じてる。」

「明人……」

「だからなにもしなくていい…企業が何かしたんだとしたらそれはそれでいいし、解決しなかったとしてもそれはそれでいい。」


……一番、大人な意見かもしれない。

でもそれだと運に任せてるみたいで…。


みんながぐっと黙り込み、これからどうしようか悩んでいた時、明人君が「あ」と声を上げ、携帯電話を取り出した。


「当事者の父さんの意見も聞こうか。」

あ、確かに、それは必要かも。

明人君の提案にみんなが頷くと、明人君は「スピーカーにするな?」と言いながら携帯を操作し始めた。


「直樹さんって一片の作者だよな…?」

智明が緊張してる…可愛い…。

「そうだよ、直樹おじさんは一片の作者。」

「だよね…ねぇ、私声変じゃない?」

「変じゃない、可愛い声。」

「…ダメだ明人君にときめいちゃった私。」

「もしもし父さん?」

「え、もうかけたん?」

『もしもし、明人?どうした?』


…沈黙。


「なんで全員黙んの…もしもし父さん、スピーカーな?あのさ…ヤクザの話知ってる?」

明人君が黙り込む私たちを笑ってから、直樹さんに話し始めた。

直樹さんは少し唸ってからこう答えた。


『解決策が欲しいのか』

「話が早くて助かるよ父さん、晶は作者リンチするって言ってて…。」

『論外だなそれは』

「でもそれくらいの気持ちになりません?」

『分かるけど、君は少し血の気が多すぎるんじゃないか?』

「…はい。」


晶が責められてる…面白…。


「で、朱里は…晶を狙ってるやつらを利用しようかって言ってて。」

『噂には聞いたことがあるな…ある企業が秘密裏に非合法な人体実験をしていると…その企業を利用しようというわけか。』


…流石、耳が早い。


直樹さんはしばらく考え込んでから、私に対してこう質問してくれた。


『朱里さんは…理性的だね?頭がいいじゃないか』



「父さん、朱里が倒れた。」

『た、倒れた!?』

「倒れてませんよ!」


い、池崎明人が私を褒めてくれた…。

マジで倒れそうだったけど…えぇ…末代まで言い伝えよ…録音しとけばよかった…。

なんてことを考えながら、さっきからじっと黙っている晶を見てみる。


「…晶?どした?」

と話しかけると、晶は顔を上げ、直樹さんにこう言った。


「…何もしないという案も出たんです…でも…それだとうちの父が…黙ってないかもって思うと、怖くて…」

…晶。


直樹さんはこう問いかける。

『君のお父さんの名前は?』

「延彦です。」


少しの沈黙。

直樹さんは声を震わせながらこう言った。


『…伝説の女の旦那だ…君はあの二人の…子供なのか』


…知ってるのか。


顔を見合わせる私たち五人。

晶は下唇をぐっと噛んでから、か細い声で「はい」と返事をした。


直樹さんはこう続ける。

『…じゃあ、君は今からお父さんに、お母さんの声真似をして電話を掛けなさい』

「…え?」


口を開く智明。

「こ、声真似…?なんで…」

そこまで言って口を閉じる智明。

明人君の肩をポンポンと叩き。口パクで「晶の力の事言ったの?」と尋ねると、明人君は目を大きく見開きながら首を横に振った。


『能力については、色んな人の噂を聞いたり、実際にこの目で見たことがあるから知ってるんだ』

…そう、なんだ…。


『お父さんを怖がっているような素振りを見るに、過度な期待をされてる?そのせいで君は母親に対してコンプレックスを持っていると読んで、能力はトラウマやストレスで目覚めるという情報を合わせると、君は人を真似する力を持ってるんじゃないか、と考察したのさ』


…すごい…。


『みんなが黙っているところから察するに、合っていたみたいだね?』

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」


…私達って意外と分かりやすいんだな。

…でも


「お母さんの真似ってどういう意味ですか…?」

そう尋ねてみると、直樹さんはくすくすと笑ってからこう答えた。

『今田は君が考察する番だよ、朱里さん」


…………私が、考察を…。


「…やってみます。」

『頑張ってみな』


みんなが期待の目でこっちを見てる。

…よし、推理小説家泣かせの私の力を見せなきゃ!!


…あぁ、何だ…単純じゃん。


「…お父さんは、晶からお母さんの声がしたら多分、困惑して…晶に、お母さんの姿を重ねて見ていた事を後悔すると思います。」

『あぁ、そうだね』

「お詫びをすると…言うかもしれない。」

『そうだ』

「だからそれで企業に圧力を、違う。」

『そうだ違う』

「天才同士の会話って感じするな、明人。」

「理解してるフリしよう。」


…うるさいな。

でも、ここからは私でも分からない。

晶のお父さんがお詫びをしようと「何でもする」と言ったとしたら…何を頼めばいい…?

晶のお父さんは結構な権力を持ってて…それをうまく活用するには…。


…結構な、権力を、持ってるのか。

じゃあ、そんな存在を好きなように動かせるのなら…。



「…延彦さんを言いなりに出来る、っていう状況さえあればいいのか?」

『でも、何か一つ頼むとすれば?』

「「これからうちのやることに口出さんといて」…?」


沈黙。


その沈黙を破ったのは智明だった。


「…あの、俺の母親…沢田皐月っていうんですけど…晶の母親と知り合いだったらしくて。」

『…皐月…もう一人いなかったか?確か…松田…弓月とかいう名前の…』

「!!ゆ、弓月!!龍馬のお母さんの名前です!!」

『そうか…じゃあ…電話さえあれば、企業が勝手に動くし、君たちは何もしなくていいよ』

「晶ちゃん!電話!!」

「わ、分かった!!」






20XX年 日曜日






ゆめのなかでおかあさんをみつけた

あたたかくてしあわせだった

もうおわりだよっていわれた

おわりたくないっていった

きえたくないよっていった

まだつづく

まだつづけるんだっていった


おかあさんは なんかいもあやまってた






おかあさんをころした

なぐってあたまをうちつけた

ちがながれて

ぼくのぜんぶをよごしていった

けすなっていった

そしたらしぬまぎわ

おかあさんはよろこんでいた


「やっとしあわせになってくれる」って


ぼくにはなんのことかわからない

でもただわかるのは

おかあさんはぼくたちがすきなんだ

だいすきでたまらないんだ


ぼくもぼくたちもおかあさんがだいすき


だから けさないで

きえないで


ばらばらにした

ちをあびるぼく

てがあつくて

とけそう


眼球がとろけて脳みそが掻き回される感覚

手足が自分のものじゃないみたいでしびれる

さいこうにいかすね

脳に歌が流れる

なにかのさんびかだ

英語だからわからないや

体に電気が走る

あたまがぐらぐらする


これなんていうんだっけ

あぁ


めいていかんだ


これが自我

これが自我か

じが



勝手に動くの

指が

たすけて



ゆびがおれるよおかあさん


4時50分

私の私が私を壊そうとする




きっとあなたは報われる







あなたなら大丈夫




うまく息ができない






まるで歓声をあびているみたい
















そして死ぬ


死ね



殺してやる














死で償え、

















あの馬鹿女




















初日の出、みんなで、見に行きたかった。

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