第55話 「女について」




「…智明、ちょっと話せる?」

旅行以来、簡単な連絡以外一切話していなかった智明へ声をかけると、下唇をグッと噛んでから一度大きく頷いてくれた。


「…ここで話して良い話じゃないから…二人きりになれる場所に行きたいんだけど…大丈夫?」

と言うと、大きく目を見開いてから「分かった」と答える智明。


私たち二人が向かった場所は4月頃、6人で行ったカラオケボックスだった。


コーラを一口飲み、気まずそうに俯いている智明へ

「話っていうのは、私たち二人の関係について…なんだけど。」

と言うと、顔を上げ、私の瞳をじっと見つめた。


「…これからどうするか…決めるのか?今。」

不安そうにそう聞いてくる智明が…なんか、幼い子供に見えた。

長い睫毛が、切れ長の瞳が…骨格が昔から変わらずずっと綺麗で。

やはり好きだな、と…確信してしまった。


…手が震える。

拒絶されたらどうしよう、と不安に襲われて…胸が、グッと締め付けられる。


「…智明が」

「…うん。」

「……ちゃんと、自分の全部話してくれないと…付き合いたくない。」

「…俺の、全部?」


震える智明の声。


「智明にとっても、私と…私っていう存在と、付き合って?これから先、未来を考えるなら…考えてくれるなら…しっかりお互いを知っておきたいの。」


沈黙。

アーティストの楽曲紹介が虚しく響いた。


「…話したら、朱里は、お前と俺は…。」

「分かってる、多分晶はそれを分かってて…智明と私が付き合ったとしても、短い間になるかもしれないって…だから、私に普通に生きろって強いてたのか、って。」

「…晶がそんな事言ってたのか。」

「……私、智明の事好きなの、誰よりも好き、愛してるよ?智明以上に好きな人なんて現れるわけ無いって思ってるの…重いけど…学生風情が何言ってんだって思われるかもしれないけど…好きなの。」

頭の中の謎の声が「誰がそんな事思うんだ」と言ってくる。


ボロボロと流れる涙。

智明は私の頬を拭ってくれた。


「…話して、理解し合ってさ、その時にやっと付き合う…ってのは…少し軽すぎる気がする。」


智明の言葉が、理解出来なくて。


「…三年に上がったら…俺、お前に全部言うよ。」

「……なんで今じゃないの?」

「…今はまだ覚悟できてない、昔から俺の事を色々話してくれる…存在がいるんだけどさ、そいつに相談して…それから、俺の中で折り合いついてから…またこうやって二人で話し合おう、いい?」


智明の纏う雰囲気が変わった

まるで別人みたいで


龍馬君、みたいで


「…わかった」

「……でさ、破っても良いし、絶対に守らなきゃ、って…責任感じなくて良いから。」

「……?」

「卒業したら…一緒に、部屋探そう?」



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