第3話 池崎
「だーかーらー!!俺はラーメンが食いてえって言ってんだろ!」
「僕はオムライスって気分なの!!」
こんにちは、松田龍馬です。
珍しく智明と意見が分かれて、校門の前で言い争っています。
…って、誰に対して話してんだろ。
「俺は昨日の夜からずっと今日の昼はラーメンを食うって決めてんだよ!」
「ねえ智明!たまには人に合わせること知ったら!?」
「うるせえ!!お前が合わせろ!!」
智明の事は…まぁ嫌いじゃないけど、こういうところは大っっ嫌いなんだよね…。
「俺に合わせろ!」とか
「俺が正義だ!」みたいな。
いわゆる「俺様」ってやつ?
気に食わないな…。
お互い睨み合い、ばちばちと火花を散らしていると、池崎君が止めに入ってくれた。
「ま…まぁまぁ…ここは公平に…」
「池崎すまねえ、これは俺ら二人の争いだ…。」
「えぇえ…」
「僕も、池崎君は巻き込みたくない。」
「えぇええ…」
池崎君の優しさも僕ら二人の怒りに揉み消され、このままじゃ殴り合いになってしまいそうな時、池崎君が何か閃いたように顔を上げ、こう言った。
「じ…じゃあ近くにあるショッピングモールのフードコートで食べましょうよ…!そこならオムライスもラーメンもあります…けど…。」
「……天才か。」
池崎君の神的なアドバイスを受け、3人でフードコートに向かっていると、ふと学校に置いた自転車と、今日のアルバイトのことを思い出した。
「ねえねえ、自転車どうしよ」
「明日の朝は歩きで、帰りは乗ればいいんじゃね?」
「そうだね、あとさ…ご飯食べた後バイトまでちょっと暇になるんだけどさ…それまで何しよっか…」
と智明に言うと、少し間を置いてから話し始めた。
「んー…ずっとフードコートにいたら掃除のおばちゃんに怒られるしな〜…ゲーセンでも行くか。」
「そうだね!池崎君もそれでいい?」
僕の隣で、俯きながら歩いていた池崎君にそう尋ねると、少し驚いてから何回も頷いた。
「池崎本当に大丈夫か?予定あんなら今からでも送ってくぞ?」
「だ…大丈夫です…。」
池崎君…すごい僕らに対して気を使ってるな。
…なんか、すごく嫌だ。
…そうだ!
「ねえ、池崎君、僕らのこと名前で呼んでよ!僕らも名前で呼ぶからさ!」
と、言ってみると、顔を上げ、消えそうな声で僕の名前を呼んでくれた。
「…りゅ…う…ま…さん…?」
「さんいらないよ!…まぁ話しやすいならそれでも良いけど…。」
と言ってからにっこり微笑みかけると、またぐっと俯いてしまった。
すると、智明が池崎君の肩を優しく叩き
「俺の名前も呼んでくれよ、ともあき!って!」
と言うと、池崎君は顔をすっと上げ、さっきより大きな声で智明の名前を呼んだ。
「…智明」
「呼び捨て……ふふふ…。」
池崎君の呼び捨てが衝撃的で笑っていると、怒った智明が池崎君の肩を抱き顔をぐっと近づけた。
「おい俺は呼び捨てか〜?いい度胸してんじゃねえか…!」
「池崎君智明の扱い分かってきたね!」
「…はい」
「「はい」じゃねえよ!言っとくけど俺はいじられキャラじゃねえからな?仕返しにお前のこと変なあだ名で呼ぶぞ?」
「…「池崎明人」で…面白いあだ名できますかね?」
「……あっ…ビミョーに面白くないのしか浮かばねえ…」
…面白くないあだ名、気になるな…。
「じゃあさ…あだ名の事は一旦置いておいて…僕らも池崎君のこと名前で呼ぼうよ!」
「わかった!明人!」
「明人君!」
二人で名前を呼ぶと、嬉しそうに小さな声で「はい」と返事をした。
名前で呼ぶようにしてから、さっきより少しだけ明人君と仲良くなれた気がするけど、妙に引っかかる。
…なんで僕だけは呼び捨てじゃないんだろう。
僕のこと嫌いなのかな。
フードコートに着き、4人がけの席に座り、周りをキョロキョロと見渡してみると、始業式だからか、フードコートには僕らと同じ制服の子達が居る事に気付いた。
席に腰かけ、鞄を自分の隣に置いた瞬間、智明がぐっと下を向き、ボソッとこう呟いた。
「やべ…朱里いる…」
…朱里?
「朱里さんって、あの髪長い綺麗な子?」
「ああ…」
眉間にしわを寄せて細かく頷く智明を見て、一年の時からいつも智明と言い合っていたあの子を思い出す。
智明が唯一と言っていいほど苦手な女の子だ。
フードコートを見渡すと、制服を少しだけ着崩して、友達2人とお話してる朱里さんを見つけた。
…あれ?あのボブの子のもみあげ…。
女の子3人をじっと見ていると、朱里さんとばっちり目が合い、にっこり微笑んでからこちらに向かってきた。
「!!」
「…?どうしましたか…?」
恐る恐る聞いてくる明人君に
「智明ごめん、目合っちゃった、こっちくる」
と言うと、智明がバッ!と顔を上げ、少しだけ立ち上がった。
「おいおいまじか!!」
「龍くんがいたと思ったらやっぱり智明もいたか〜…」
「くっそぉぉおおお!!!」
ニヤニヤと笑い、智明の肩をツンツンする朱里さん。
すると、僕の隣に座っている明人君に気付き、優しく微笑みながらそっと手を振った。
「お、明人君!久しぶり!」
「…こんにちは」
…明人君とも知り合いなんだ。
「2人…知り合いなの?」
と聞くと、嬉しそうに話し始めた。
「うん!親友が明人君のいとこでさ〜…いっつも自慢ばっかりしてくるんだよね!!」
…愛されてるなぁ…。
明人君に視線を向けると、髪で隠れてあんまり見えないけど露骨に嫌そうな顔をしていた。
…明人君そんな顔できるんだ…。
ずっと黙ってるか驚いてるか照れてる印象しか無いから新鮮だな。
すると、朱里さんが明人君の嫌そうな顔に気付き、
「明人君すっごい嫌そうな顔してる…めっちゃかわいい…小動物みたい…」
くすくすと笑いながら、明人君の肩を優しく叩いた。
すると、明人君が朱里さんに肩を叩かれてびっくりしたのか、目を少し開いて焦った表情をした。
朱里さんの言う通り、明人君は小動物みたいで可愛いなぁ…。
明人君でほっこりしていると、朱里さんが突然智明に
「あ!そうだ!ねえ智明、明日学校に“一片の報い”持ってきてくれない?下巻は持ってんだけど上巻なくてさ」
と、手を合わせてお願いをした。
一片の報いというのは、最近アニメ化され、話題を呼んでるファンタジー小説だ。
登場人物全員で力を合わせて頑張るステキなシーンもあれば、裏切りや殺人と言った残酷で残虐なシーンもあり、物語の展開がコロコロと変化する情緒不安定な小説だ。
でも、何故かその独特の作風に惹かれる人が急増しているんだって。
…まぁ、僕もそのうちの一人なんだけど。
……嬉しかったなぁ。
僕はアニメから入ったんだけど…まさかオープニングを僕の好きな歌手が歌ってるとは思わなかった。
「はぁ…仕方ねえな、分かったからさっさと行けよ…友達待ってんだろ。」
と言い、迷惑そうにしっしっと手を払う智明。
「はいはい、じゃあもう行くね!話せてよかった、またね!龍くん!明人君も、あとついでに智明も!」
ケラケラと笑いながら智明の肩を叩く朱里さんに、
「ついでじゃなくて俺がメインだろうが!」
と、子供みたいに文句を言う智明。
「はいはい、またね!」
…前々から思ってたけど、ちょっとだけお似合いだよね、この2人。
恋愛ドラマだったら絶対結ばれてるよ…。
なんて事を考えながら、そっと智明の顔を覗き込むと、
「…ったく…あいつは俺の扱い雑すぎだっつーの…。」
どこか嬉しそうに、ぶつぶつと文句を言っていた。
「へぇ…でもなんか…嬉しそうだね?」
「…うるせ、バカ」
もじもじしている智明が珍しくてからかってみると、僕から顔を逸らし、ぐっと俯いてしまった。
…あれ…確か智明が朝言ってた好きなタイプってもしかして…。
髪が長くて趣味が合う人……。
……あー、なるほどね……。
なんだ、智明も可愛いとこあんじゃん。
「何ニヤニヤしてんだ」
「してない」
「してんだろ…おい、明人もニヤニヤすんな」
「してませんよ、好きなタイプがモロあの人だって事でいじったりもしません。」
「ほぼ言ってんじゃねえか!!」
注文したオムライスを席に運ぶと、智明もちょうど取りに行ってるみたいで、明人君と二人きりになった。
明人君の許可を得てから隣に座り、明人君の前に置かれているトレーに目をやる。
…明人君たこ焼きにしたんだ。
「たこ焼き好きなの?」
と尋ねると、少し戸惑いながらもゆっくりと首を縦に振り、
「龍馬さんはオムライス好きなんですか?」と聞いてくれた。
「うん、ちっちゃい頃からの好物でね…久しぶりに食べたくなったんだ。」
と答えると、嬉しそうに同意してくれた。
「わかります…そういう時たまにありますよね…」
うんうんと数回頷くと、明人君が少し微笑み、こう尋ねてきた。
「…あの、龍馬さんのお母さんって、どんな方なんですか?」
「え?お母さん?…優しいよ、ご飯も美味しくて、いっつも僕の事心配してくれるんだ。」
お母さんの顔を思い出しながら言うと、頬を赤く染め、またニコニコと笑った。
なんか…お母さんの事話してたら、久しぶりにお母さんに会いたくなってきちゃった…。
…そうだ…明人君の親御さんはどんな人なんだろ。
明人君みたいな素敵な人なのかな?
聞こうか迷っていると、智明が明人君の前に座り、
「お待たせ!!なんだ?恋バナでもしてんのか?」
と、相変わらずデリカシーのかけらもない事を言って来た。
こいつは…相変わらず、空気を読まずにズカズカと他人のプライバシーに入ってくるな…。
まぁ、こういうところも智明の長所なんだろうけど。
「違うよ、家族の話してたんだ。」
と説明すると、僕の顔をじっと見てから、にっこりと笑いこう言った。
「家族?おー!俺も混ざる!明人は今何人家族だ?」
「お父さんと僕の2人です。」
お父さんと明人君の2人か…明人君のお家って結構複雑なのかな。
…いや、あまり考えすぎないようにしよう。
自分にそう言い聞かせ、明人君の話の続きを聞く。
「今は姉さ…あ、いや、いとこのお姉さんと住んでます。」
姉さん…か。
不自然に途切れた所から予測すると…いつもいとこのお姉さんの事「姉さん」って呼んでるんだね…。
その時、智明が
「で?いとこの姉さんは可愛いのか??」
と、またもや身を乗り出し、デリカシーのかけらもない質問をした。
「智明、ちょっと…」
智明に注意すると、明人君が恐る恐る僕の肩をぽん、と叩き
「大丈夫ですよ……はい、叔母さんによく似た美人です。」
と、少しだけ明るい声で答えた。
…あれ…この子、もしかして無自覚で人を恋に落とす子じゃ…?
隣の明人君に少し戸惑っていると、智明が
「ほー!明人の叔母さん知らねえけどお前がそこまで言うんなら相当可愛いだろうな!」
と、言いながら、目を覆いたくなるくらいの明るい笑顔で笑った。
本当何様だこいつ。
なんて考えていると、
「…あ、早く食わねえと飯冷めちまうな…待たせてごめん。」
と、少し眉を下げて僕ら二人に謝る智明。
「いえ…その……」
あわあわと、智明に何か言おうとする明人君。
「そうか、お前が言いたいことは分かってるぞ、明人は優しいな!いいから早く食おうぜ!じゃねえと冷めちまうからな!いただきます!」
と言ってからラーメンを食べ始めた。
明人君は、さっきの智明からの言葉が嬉しかったのか、少し口角を上げてから、こっそりと手を合わせ、小さな声で「いただきます」と呟いてからたこ焼きを食べ始めた。
二人に並ぶように「いただきます」と呟き、僕もオムライスを食べる。
当たり前かもしれないけど、朝に食べたカップ焼きそばの何倍も美味しかった。
ご飯を食べ終わり、ゲームセンターに向かっていると、智明が
「うぉぉおお!懐かしっ!龍馬覚えてっか!?あのじゃんけんのやつ!」
と言いながら、目をキラキラと輝かせ、子供達が沢山いるメダルゲームコーナーを指差した。
「覚えてるよ、智明いっつもお小遣い使い果たしてたね。」
小さい頃、ここで何回もプレイしては負けてを繰り返し、お小遣いを使い果たしてしまって、いつもわんわん泣いていた小学生の頃の智明を思い出す。
「…メダルゲーム下手くそなんですね…。」
そんな高校生の智明を憐れみの目で見つめる明人君。
「それは言わなくて良いんだよ…明人まで俺を責めんな、悲しくなるだろ…。」
と言いながら、腰と頭に手を当て少しうなだれる智明。
「あ…す、すみません…。」
そんな智明の顔を覗き込み、謝る明人君。
……可愛いコンビだな…。
すると、智明が顔を上げ、僕ら二人の肩をぽんぽんと叩いた。
「よし、今回はお前らにカッコ悪いとこ見せたくねえから二人で回ってこい!!」
そして僕ら二人の背中を押し、グッ!と親指を立てた。
…もしかして、気を使ってくれたのかな。
「…本当…イケメンだなぁ、智明は。」
智明、今回は使い果たすなよ、もう大人なんだから。
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