第2話 クラス表


高校に到着し、少し駆け足で二階に上がり、掲示板に貼ってあるクラス表を見に行く。

よかった!時間はまだ大丈夫だ!

…だけど、掲示板の前には面白いくらい人が集まっていて、背伸びしても人の頭しか見えない。


こうなったら人を掻き分けて…!!

でも、いきなり肩を触って行ったらびっくりするだろうから、ちゃんと声をかけなきゃ。

と思い、前の人に声をかけてみると、肌が雪のように真っ白で、鼻がすらっと高いかなりの美人さんがゆっくりとこちらを向いた。

髪は肩までのボブで、女の子から見て右側のもみあげだけが短かった。

そして、寝不足なのか、目の周りは少し黒ずんでいて、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。


「あ、えっと…その…」

その子の目を見ると、さっきまで考えていた言葉がいきなり出てこなくなった。

…あんまり人と話すの得意じゃないんだよな。

それに…すごく失礼だけど…この子ちょっと怖いや…。


すると、気を使ってくれたのか、女の子の方から話してくれた。

「あっ、もしかしてクラス表ですか?実は私もまだ見れてなくて…」

と、申し訳なさそうな顔をした。


…あれ…この子、結構控えめな子なのかな。

人を見た目で判断しちゃダメなのに…ごめんね、もみあげちゃん…。

「そうなんですね…いえ!大丈夫ですよ!」

……大丈夫じゃないけど。

もうすぐチャイムが鳴りそうなのに…どうしよう。



その時、人だかりから幼馴染の声がした。

「おーい龍―!俺ら同じクラスだったぞーー!!!」

と叫びながら、人をかき分けてこっちに向かってきた。

…勇気あるなぁ。

すると、前の子が僕とこっちに向かってくる奴を見てから恐る恐る話しかけてきた。

「あの人、知り合いですか?」

「…はい、友達です…」

…なんか、すっごい恥ずかしいんだけど。


自分のおでこに手を当てながら大きく溜息を吐くと、女の子が口に手を当て、クスクスと笑ってくれた。

「ふふ……積極的な人なんですね。」

「…はい、積極的が擬人化したような奴です…。」

…バカ智明…なんか恥かいたじゃん…。

「仲良しなんですね…あ…なんか…行けそうなので行ってきますね…!あのお友達にお礼言っといてください!」

クスッと笑ってからそう言い、人混みをすいすいと通り抜けて行った。

「あ、あの…名前…教え…て…く……」

…あー、見えなくなっちゃった…。

…あの子と同じクラスだったらいいな。



あの女の子のことを考えていると、

「龍―!!一年間よろしくな!!」

と、言いながら爽やかな笑顔で肩を組んでくる、積極的の擬人化、沢田智明。

智明は金髪ってだけでも派手なのに、右耳にピアスを2つ、左耳に3つ開けてる。

それだけじゃなくて、シャツのボタンを2つ開けている、誰が見ても「チャラ男」というくらいのチャラ男。


でもそれに似合わないくらい顔つきが爽やかで女子からすごくモテる。

それに生まれつきガタイがいいから性別問わず色んな人達からモテるんだよなぁ…いいなあ…。


「うん!ていうか…僕の名前も見てくれたんだね…ありがと…!」

「気にすんなって!いやあー!!やっっっっとおんなじクラスになれて良かったぁあ!!」

と、大袈裟なくらい喜び、僕の背中をばしばしと叩く智明。


「痛いよ、やめて、通報するよ。」

「あ、ごめん、でも何年も一緒にいるのに1回も同じクラスになったことないんだぜ!?今年は奇跡だなぁ!」

謝っておきながらも、一ミリも悪びれる様子がなく、目を覆いたくなるくらい眩しい笑顔で喜びを伝えてくる。

智明は本当に朝から元気だなぁ…。


「だね…まぁ…僕も智明とやっと一緒になれて嬉しいよ?」

僕からも喜びを伝えると、満足したようにまたニッコリと笑った。


「じゃあ同じ教室になった記念に…手繋いで行くか?」

「一緒じゃなくても行ってたでしょ、握らないで、殴るよ」

「あはは、そういえばそうだったな!」

なんてくだらない事を、所々で人の話し声がする廊下で話す。


…あ、そういえば聞き忘れてたな。

「ねえ智明、僕らって何組?」

と聞くと、ポケットに入れていた手を出し、自分のもみあげあたりの髪の毛を人差し指と親指で整えながら

「あ?あ…そういやあ言い忘れてたな…一組だぞ。」

と、答えてくれた。

…智明…自分の髪の毛そんなに気になるのかな。

そんなに気にしなくてもかっこいいのに。

なんて、智明には絶対言ってやらないけど。


「一組かー…一組になるのは中一の時以来かな。」

少しだけ気まずい雰囲気になってしまった事を誤魔化すかのように僕から話を切り出すと

「確かそうだな…そん時俺二組でよー!毎回授業終わった時龍のとこ行ってたな!」

と嬉しそうに話し始めた。


中学か…。

…あれ、そういえば…中学生の時も小学生の時も、最近でも休み時間は毎回智明が廊下から

「龍―!ドッヂボールしよーぜー!」

とか

「おい龍!暇か!?バレーしようぜ!!」

とか

「龍馬!!バスケしようぜ!!勝ったら負けゲーム!!」

とか言ってきたっけな……

いつも大声で呼ばれるから恥ずかしかったんだよな……。

……あれ……?


「ていうか一年の時だけじゃなくてずーーっと僕のとこに遊びに来てんじゃん…」

そうだ…クラスが違うからずっとクラスメイトからチラチラ見られたり笑われたり

「お友達元気だねー!」とか言われてたんだ……。


「言われてみればそうだな!はは!俺はお前の金魚のフンか!」

と、全く悪びれる様子も気付くはずもなく、いつも通り爽やかすぎる笑顔で自虐ネタをぶっ込んできた。

…自虐ネタをぶっ込むってことは少しは気にしてるのかな…?


「金魚のフンとかまんま智明って感じだね……」

「あ…?お?いやそれどういう意味だ?説明次第ではげんこつだぞ?」

「ごめんごめん……ふふ。」

と、いつも通りくだらない会話をしながら一組の教室に入り、黒板に貼ってある座席表を見る。


僕は35人のクラスで、出席番号32…

結構後ろの方だな…。

智明の出席番号は…19ね。

そして、一番重要な僕の席は…窓際で前から2番目か。





すると、隣から嫌そうな声で智明が話しかけてきた。

「うげ…俺席ど真ん中じゃん…!龍羨ましいなぁ…松田智明にしてくれよ…毎朝味噌汁作るから…」

「あーそういうのいいから、黙って」

「はい、ごめんなさい」




自分の席に座り、筆記具を机の上に出す。

時計を確認してから教室を見渡すけど、朝会ったあのもみあげの女の子は見当たらなかった。

…違うクラスだったのかな。

あの子のことを考えていると、ふと、さっきのあの子からの言葉を思い出した。

そうだ…智明にあの子からのお礼言わなきゃな…。

席から立とうとした途端、始業式開始のチャイムが鳴った。

…タイミング悪いな…。



黒板側のドアから担任の先生が入ってきて、黒板に大きく自分の名前を書いてから自己紹介をし始めた。

「初めまして!今日から皆の担任になる「狭山恵美」と申します!担任を持つのは今回が初めてなんだけど……」

担任の先生女の人なんだ…。

こげ茶のショートで、白いシャツを肘あたりまで折った、かなり綺麗な女の人。

担任の先生にこんなことを思うのはなんかアレだけど…智明の女の子版みたいだ…。


先生の自己紹介が終わり、クラスの男子諸君が先生に質問をし始めた。

「めぐみさんって彼氏いるの!?」とか

「可愛いですね!」っていう質問ばっかりだけど。

そして大体の質問をしている奴が幼馴染だという事実。

そして先生はというと僕の幼馴染から「可愛い」と言われ耳まで真っ赤にしている。

…智明のクラスの担任になった女の人達はいっつもこんなんだったのかな。

もしかして男の人たちも…?


「も、もう!先生のことはいいから!そろそろみんな自己紹介しなさい!罰としてみんなに好きなタイプ言わせるよ!?」

と、みんなをキョロキョロと見る狭山先生。

好きなタイプは…ちょっとなぁ…。

「髪が短い子」とか言ったらショートの女の子達からの視線が痛そうだからなぁ…。

「俺めぐみさん!」

こいつは…!!

「やめなさい!もう…えっと…池崎君から!自己紹介と同時に好きなタイプもお願い!」


と、先生に話しかけられ、ビクッと震える出席番号1番の男の子。

…こういう子は応援したくなるなぁ。

そっと立ち上がり、長い髪の毛で顔を隠し、高めの身長を誤魔化すように背中を丸め、服の裾をぎゅっと掴みながら小さな声で自己紹介を始めた池崎君。


「頑張れー…」と心で小さく応援しながら池崎君を見つめる。

「…あっ……ぃ…池崎…明人です…。」

みんなからの視線が怖いのか、少し顔を上げたと思ったらすぐ俯き、言葉を続けた。

「す…好きなタイプは……えっ…と………優しい人…?…です…よ…よろしくお願いします…。」

言い終わった後、深く深く頭を下げ、急いで座った。

よく頑張ったね池崎君…!君は勇者だ!

…池崎君か、何処かで聞いたことある名前だな。


「観月です、好きなタイプは顔が綺麗な人。」

「なっ、なんですかそれ!ちゃんと苗字も言って!」

池崎君が自己紹介をしてからというもの…なんだか池崎君がすごく気になり、他の人が自己紹介をしている間もチラチラと池崎君を横目で見てしまっている。

すると、僕からの視線に気付いたのか、僕をじーっと見つめ、少しお辞儀をしてくれた。

…守りたい…。

池崎君に向けてにっこり微笑むと、少し驚き、急いで目を逸らした。

……怖がらせちゃったかな…?


池崎君と無言のやり取りをしていたら、いつのまにか智明が自己紹介をしていた。

「俺は沢田智明!好きなタイプはー……そーだなー…趣味が合う人?かな!髪の毛は長いほうがいい!とにかく!よろしく!」

と、智明が自己紹介した途端、クラスの髪が短い女の子達がそわそわし始めた。


……イケメン死すべし。


あ、そうだ…僕も自己紹介しなきゃいけないんだ…。

好きなタイプか…どうしようかな…。


「松田龍馬です、好きなタイプは…友達思いな人…かな、よろしくお願いします…」

と言ってから、お辞儀をし、席に座る。

ぶ…無難だったよね…?浮いてないよね…?大丈夫…。


大きく息を吐いてから、後ろの席の人の自己紹介を聞く為に身体を少し後ろに向けると、視線の隅で僕に向かって口パクで

「龍の好きなタイプって俺か!!??」

と言っている智明が見えた。

違うから、黙ってて。




始業式が終わり、鞄を肩にかけると、智明に肩をトントンと叩かれた。

「なぁ龍、今日バイトあるか?」

もしかしてご飯とか遊びに誘ってくれるのかな。

「うん、4時からあるよ」

と言うと、

「4時か!4時まで暇なら一緒に飯食いに行かね?」

やっぱり!さすが幼馴染!

「いいよ!どこ行く?」

「そーだなー…ラーメンとか牛丼とか食いてえなー」

「じゃあオムライス屋さんにしよう」

「おい俺の意見無視か!!」



と、智明と話していると、一人で帰る支度をする池崎君が目に入った。

…なんか…放っておけないな…。

「ねえ智明、池崎君誘っていい?」

と尋ねると、笑顔で答えた。

「池崎?あー!いいぞ!俺もあいつ気になってたしな!」

やっぱり智明も気になってたんだ。

「じゃあ僕誘ってくるね!」

「おう!頼んだ!」



席を立とうとした池崎君に

「池崎君…だよね?あのさ、もしこれから用事ないなら智明と僕と一緒にご飯食べに行かない?」

と、話しかけると、首を傾げ、前髪をすこしだけ分けて、僕をじっと見つめた。

「…あ、いきなりすぎたね…ごめん…僕は松田龍馬、確か…自己紹介の時目合ったよね?」

と言うと、すこし頷き小さな声で

「勘違いじゃなくてよかったです」

と、呟いた。

…覚えててくれたんだ。



前髪からちらちらと見える鼻や目を見る限り、池崎君はかなりイケメンだ。

それに声もかっこいいし身長もかなり高かった。

でも良いところ全部を前髪と仕草で隠してる、宝の持ち腐れだよ…。

「………あ…あの……」

「…え?あ、ごめん!!」

しまった…池崎君の顔じっと見ちゃってた…!

怖がらせちゃったかな…

「ごめんね!池崎君…」

「大丈夫ですよ…その…すみません…ご飯…食べに行くんですか?」

…あ、そうだ!智明のこと紹介しなきゃ…

と考えていると、智明が池崎君の肩に腕を回し、耳元で話しはじめた。

「よー!池崎ー!俺沢田智明!池崎って今恋人とかいるのか?」

智明の大馬鹿野郎!!!


「あ……?えっ……恋人…?……居たことない……です…。」

ほら、戸惑ってるじゃん!!

側から見たらただのイジメだよ…。

…というか…池崎君恋人居たことないんだ…みんな見る目がないな…。

「居たことねえのかー…お?お!!お前結構綺麗な顔してんじゃねえか!何前髪なんかで隠してんだ?勿体ねえぞ!」

すると、智明が明人君の顔の良さに気付いたのか、池崎君の頭をわしわしと撫で始めた。

肝心の池崎君は…。

「あー…髪の毛が……」

…良かった、満更でもなさそうだ。

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