百合ゲームの世界に入ってしまった私はあの子を幸せにしたい

星乃

プロローグ

 明日から高校二年生になる。そんな春休み最終日に、私はあるゲームに熱中していた。「桜ヶ丘女学園」という、百合ノベルゲーム。よくある主人公が相手を選んでいくものではない。プレイヤーがいくつかのカップルの中から一組を選び、それぞれの行く末を選択肢でハッピーエンドにもっていく、というものだ。だから、私は今完全なる第三者になって楽しんでいる。


 流石に目が疲れてきて、私は一旦眼鏡を外してベッドに寝転がった。そして、あの子のことを考える。


 相川千尋あいかわちひろ。ゲームのキャラクター達の間……主に幼なじみの姫乃ひめのからは、ちーちゃんと呼ばれていた。全てのストーリーで理解ある友達として登場する。まず、その愛らしいルックスから私は彼女の虜だった。

 

 そして、あくまでもサブキャラクターだからか、ちーちゃんには幸せになる描写がない。私にはちーちゃんが一番魅力的に見えているのに。メインのカップルである姫乃&那月なつきのストーリーでは、ちーちゃんは幼なじみである姫乃に想いを寄せていることが描写された。


 「姫乃ちゃんが幸せなら」そのセリフと共に、ちーちゃんは姫乃と那月の恋愛をアシストしていく。丁度今そのストーリーをやっている最中で、ちーちゃんの健気さに何度も心を奪われた。


 見た目も可愛い、謙虚で好きな人の幸せを第一に願い、自分のことよりも誰かの幸せを喜ぶ心の清らかさ……何故私は彼女を幸せにしてあげられないんだろう。私は起き上がると、やるせない気持ちを机に思いっきりぶつけた。


「いたっ……」


 案の定、右手に鈍い痛みが走って顔をしかめていると、ゲームのメニュー画面を映したままのテレビ画面が急に暗転した。それと同時に、机の上に置きっぱなしだった「桜ヶ丘女学園」作中マスコットキャラクター・うめねこのキーホルダーが怪しく光る。


「えっ、壊れた……?」


 慌ててテレビに近寄ると、奇妙な音とともに吸い込まれるような感覚がした。重力を感じなくなって、周りがカラフルな模様でいっぱいになる。やがて、視界がぐにゃりと歪んだかと思うと私の意識は薄れていった。

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