第103話 最終選考開始

 1日が過ぎるのがだんだんと早く感じてくる。

これは、歳のせいなのか、日々が充実しいている証拠なのかはよく分からない。


 今日はアイドルオーディションの最終選考当日である。

最終選考では、人数も少なくなっていることから、会場も少し小規模なものになっていた。


「おはようございます」


 俺は会場に到着すると、関係者の人たちに挨拶を交わしていく。

小規模とはいえ、先日の会場が広すぎたのかもしれない。

パフォーマンスをするには十分なほどの広さがあった。


「四宮くん、おはよう」


 俺の後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。


「佐藤さん、ご無沙汰しております」

「いつも娘がお世話になっているね」


 佐藤正義、最大手玩具メーカーである株式会社バンナンの代表取締役にして美穂の父親である。

確か、バンナンの名前も協賛企業の一社として名を連ねていた。


「今日はどうして?」

「ここは、うちが管理している建物だし、せっかくなら四宮くんの働きを見せてもらおうと思ってね」

「恐縮です。そうぞ、お座りください」


 俺は社長を関係者席へと通しす。

社長の側には秘書の綾瀬さんも一緒であった。


「おはようございます!!」


 その時、Whiteのメンバーも到着した。


「おはよう」

「会場ってこんな感じなんですね」

「なんか新鮮な気がする」


 メンバーは会場の中を興味深そうに眺めていた。


「あっちに関係者席があるから座って待ってて」


 俺は関係者席の方を指さして言った。


「分かりましたってお父さん!?」


 美穂は関係者席に座る自分の父親を見て驚いた様子だった。


「え、どの方が美穂さんのお父様ですか?」

「あの、スーツの人?」


 莉奈と友梨は興味ありげに美穂に聞いていた。


「あ、うん。あの人。四宮さん、父が来るなら言ってくださいよ! てか、なんでいるんですか!」

「悪い悪い。俺も来るとは聞いてなかったんだよ。それは、ここがバンナンが管理する会場だからだよ」

「協賛企業の名前にバンナンの名前があったのでもしやとは思いましたけど……」


 表向きに発表されているポスターやパンフレットにも協賛している企業の名前は公表されていた。

その企業のネームバリューもあったからこそ、この人数が応募してきた要因も大きい。

何しろ、大手出版社や玩具メーカーが後ろ盾となって売り出してくれるのだ。


 こんなに大きなことはないだろう。

望月社長も昼行灯に見えて、結構なやり手な経営者なのだ。

業界に根強いパイプを持っているし、人望もある。


「バンナンってあのバンナンですか!?」

「玩具メーカだよね!」


 有名企業なので、名前くらいは聞いたことがあるだろう。


「そうだよ」

「え、美穂さんのお父様が社長さんだと聞いてはいましたが、まさかあのバンナンだったとは知りませんでした」


 莉奈は驚きを隠せないような様子だった。


「まあ、3人とも座って見ててくれ。もう少しで始まるから」


 俺は腕時計で時間を確認して言った。

あと20分ほどで最終選考の開始時刻である。


 各企業の代表者と望月社長も会場に入ってきた。


「今日も頼むぞ」


 そう言って、望月さんは俺の肩にポンと手を置くと言った。

それから、企業の代表者や佐藤社長に挨拶に向かった。

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