第102話 最終選考へ②

 俺は3人にテレビ出演が正式に決定したことを伝える。


「テレビ出演はもう少し先になりそうだから、詳細がわかったらまた共有するね」


 向井さんからは大まかな概要しかまだ伝えられていなかった。


「分かりました」

「俺の方からはこのくらいだけど、皆んなから何かある?」


 俺は対面に座る3人に尋ねた。

こっちから伝えたかったことは全て伝えた。


「あの、アイドルオーディションの方はどんな感じなんですか?」


 莉奈が興味ありげな表情を浮かべて言った。


「あ、やっぱ気になる?」

「はい。私たちの後輩になるかもしれない人たちですから」


 今回のアイドルオーディションに合格したら、自動的にフルムーンの所属となる。

そうなった場合、Whiteの後輩になる訳である。気になってしまうのも頷ける。


 しかし、時間の都合上、俺がプロデュースするのは引き続きWhiteのみということになりそうだ。

Whiteの仕事量から考えて、本来は1人で回せるようなもんではないのだ。


「結構、見込みのある子が多かったよ。あと、やっぱり俺は有名だったらしい」

 

 俺は苦笑いを浮かべた。


「だから、言ったじゃないですか。四宮さんはこの業界では有名なんだって」


 美穂が口にした。


「みたいだな。名前だけが1人歩きしてるような感じだがな」

「この前、WEBメディアの取材を受けてましたもんね」


 最近では、取材依頼のメールはWhite宛に大量に届くようになったが、俺個人への取材依頼は珍しかった。

以前ならこの手の取材は断っていた。

あまり、プロデューサーが前面に出るものではないと思っている。

しかし、時代は変わつつある。


 時代に文句を言っても仕方ないので、時代に合わせて自分が変わる。

これが1番手っ取り早い方法だった。


「まぁ、結構有名な所からだったし、Whiteの宣伝になればと思ってな」

 

 図々しくもその記事ではガッツリWhiteの宣伝をさせてもらった。

おかげで、そこからも導線を引くことができた。


「結局は私たちの為なんですね」


 莉奈は嬉しそうな表情を浮かべていた。

俺はこの仕事が好きだし、誇りを持っている。


「そうだね、俺は君たちと一緒に成長して行きたいと思っているからね」

「ありがとうございます」


 莉奈は笑みを浮かべて言った。


「そうだ。最終選考、見学に来る? みんながよかったらだけど」


 俺は3人に提案してみた。


「え、いいんですか!」

「行きたいです!」

「私も、興味あるかも」


 答えは3人とも結構乗り気だった。


「Whiteも結構知名度を上げて来てるし、居てもおかしく無いから大丈夫だと思うよ」


 今、Whiteはうちの事務所を代表するアイドルである。

そのメンバーがオーディション会場に居てもおかしくはないだろう。


 地下アイドル界隈でも人気と知名度を誇り、憧れる対象となってきいる。


「じゃあ、俺から社長に伝えておくね。今日はこれで終わりにするけど、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」


 これにて、今日の打ち合わせはこれにて終了する。


「じゃあ、ワンマンライブに向けてレッスン頑張ってね」


 今日はこれからダンスレッスンだったはずである。


「はい、頑張ります!」


 3人は意気込んだ様子で言った。


「うん、何かあったら遠慮なく相談してくれ」


 俺はそう言って、レッスンに向かう3人を見送った。

そこから、メールの返信やスケジュールの調整などといった仕事をこなす。


「最終選考は来週か……」


 全ての仕事が一段落した時、カレンダーを見て気づいた。

すでに望月社長が2次選考通過者にはメールを送っているはずである。


「まだ、仕事してるのか。忙しいのは分かるが、早めに切り上げろよ。明日できることは明日やればいいんだから」


 望月社長が社長室から出て来た。

これから帰る所なのだろう。


「ありがとうございます。あの、最終選考にWhiteのメンバーを見学させていてもいいですか?」

「いいんじゃないか? Whiteは四宮くんのプロデュースで今はうちを代表するアイドルだし、地下アイドル界では大手と言っていい。会場に居ても違和感ははいだろう」

「ありがとうございます」

「うん。じゃあ、私は帰るから、四宮くんもほどほどにな」

「お疲れさまでした」


 そう言うと、社長は事務所を後にした。


「さて、俺も今日は帰るか」


 キリのいいところまで行ったので、俺はパソコンを閉じた。


 窓の外を眺めると、辺りは既に暗くなり始めていた。

休める時に休んでおくのも大切なことである。


「これからまた忙しくなりそうだしな」


 俺は荷物を片付けると、帰路に就いた。

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