第92話 四宮渉の信念
人脈が武器なると気が付いたのはいつだったろうか。
俺は少し昔のことを思い出していた。
人生に光を失った大学3年の時、俺は一人の売れない地下アイドルと出会った。
彼女はアイドル業界の上を目指すために真剣にアイドルに向き合っていた。
そんな彼女の姿が、俺の人生に再び光を灯したのだと今になって思う。
俺は彼女に感化されてアイドル業界に携わることを決意する。
「四宮くん、私の元で働かないか?」
そう声をかけてくれたのは、ユメミヤの所属事務所の前社長だった。
俺は、彼ほどの人格者を他に知らない。
自分の持てる時間のほとんどを誰かのために使っていた。
だから、俺はこの人について行こうと思った。
「この業界において、人脈は武器になる」
それが、俺の恩師である社長が残してくれた言葉だった。
当初、俺はこれの意味する本質がわかって居なかったかもしれない。
以来、俺は人脈という武器をひたすらに磨き続けた。
自分なりの理想を掲げてみることにした。
それが、今の俺に繋がっている。
その人脈という武器はあらゆる場面で活躍し、俺の強みとなった。
「君はこの事務所には必要ない人間なんだ」
しかし、俺は悟った。
この武器は他人から見たら理解に苦しむ場面があると。
社長が代替わりしたと思ったら、俺は事務所を解雇されてしまった。
先代の社長は病に侵されて亡くなった。
虚血性心不全だった。
社長が俺に最後に残した言葉。
それが『人との繋がりを大切にしろ』だった。
「四宮くん、また一緒に仕事しないか?」
「四宮さんなら是非お願いしたい」
「兄貴のためならどこにだって行きますよ」
ありがたい事に俺は色んな人と繋がることができた。
彼らは皆んな俺にはできないことが出来る人間だ。
俺が歩くことの無かった人生という道を歩いてきた。
そんな彼らの生き方を俺は心から尊敬しているし、いつまでも憧れを抱いていたい。
俺が居る業界は普通の業界とは少し違う。
「全てをかけてアイドルになりたい!」
そんな夢を持った若者の背中を押し、成長を見守り、引っ張り上げる存在でありたい。
「四宮さん、頼りにしてますよ」
「四宮さんが私たちのプロデューサーで良かった」
そんな言葉が俺の支えとも言える。
まだ、二十歳に満たない子だってアイドルにかけてみたいって言うんだ。
応援しない訳にはいかないだろう。
そのくらいの年齢の子は、普通に青春して普通に恋して、馬鹿みたいに笑う。
その普通を捨ててまでアイドルになりたいなんて言われたら、俺は絶対にその子たちを見捨てたりはしない。
だから俺は思う。
「この業界において“人脈“は武器になる」
ある人は俺を天才と言う。
また、ある人は俺を秀才という。
俺は後者の方が正しいのかもしれないと思うことがある。
“秀才“とは凡人が努力した結果だから。
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