第90話 デザイナー

 俺は望月さんへの報告を済ませると、Whiteのグループチャットを開いた。


『談冬社の件、無事にまとまりました。来月末に掲載予定でよろしく』


 Whiteのグループチャットにそう送っておいた。

すると、すぐに既読が付く。


『了解です』

『凄いです! ありがとうございます』

『楽しみにしてます』


 すぐにメンバーから返信があった。

最近の女の子は本当にレスが早いと思う。

ずっとスマホの画面を見ているのだろうか。


『詳しいスケジュールは明日にでもまとめて送っておくよ』


 俺は返信すると、スマホをポケットに仕舞った。

そして、時計を見るともう定時をとっくに回っているので帰宅することにした。


 自宅に帰る頃にはあたりは真っ暗になっているが、街頭の光は月明かりまでもを滲ませてしまう。

都会の夜というのは意外と明るいものなのかもしれない。


「ただいまー」


 俺は自宅の玄関を開ける。


「おかえりー。今日は遅かったんだ」


 瑠奈がリビングのソファーに座っていた。


「ああ、今日は少し色々立て立て込んでてな」

「お疲れ様ー。ご飯あっためるね」

「悪いな」


 俺はネクタイを緩めながら、ダイニングテーブルについた。

ジャケットを隣の椅子に掛けて、瑠奈の用意してくれた夕食を食べ進めていた。


 家に帰ればご飯が用意されている生活というのは辞められない。

このままだと、お互い結婚せずにこの暮らしが続いていくのではないかと思ってしまう。


「お兄ちゃん、最近また忙しくなったみたいだね」

「ああ、Whiteがテレビに出てから何かとな」


 テレビ出演を機に、Whiteへの出演依頼が急増した。

やはり、テレビ効果というのは恐ろしいと感じる。


「そういえば、テレビ出てたもんね。ちゃんと録画して見たよ。凄かったね」

「そうなのか。ありがとうな」


 俺も後でもう一回見てみることにしよう。


「ごちそうさまー」


 俺は夕食を食べ終えると、食器類を片付けた。

明日はデザイナーさんとの打ち合わせが入っていた。

例のアイドルオーディションのポスターデザインについてのお話だ。


 倉木からも綾辻さんからも納品データはもらってある。

倉木はいつものことだが、綾辻さんも仕事が早い。


 これは本当にありがたかったりするのだ。


「じゃあ、明日も色々あるから風呂入って寝るわー」

「はーい。ゆっくり休んでねー」


 そんな瑠奈の声を後ろに、俺は寝る準備を済ませて行った。

1時間かからないくらいで準備を終わらせてしまうと、俺は自分の部屋のベッドに入った。


 明日も普通に仕事なので、目を閉じるとやがて意識を手放した。



 ♢



 翌朝、いつも通りの時間に目を覚ます。

瑠奈はすでに起きているので凄いと思う。


 別に、朝がとても苦手という訳ではないが多少は苦手意識がある。


「私、先に出るから」

「うん、行ってらっしゃい」


 瑠奈はそう言うと、会社に向かった。

俺の方というと、今日は少し出社までには余裕があった。


 朝一番にデザイナーさんとの打ち合わせが入っているため、その打ち合わせが終わった後に出社するからことになっていた。


 俺は朝食を取り、身だしなみを整える。

準備を終えると、俺も家を出た。


 今日は事務所のある秋葉原の喫茶店で打ち合わせである。

通勤時間の電車はいつも混んでいるが、これも慣れた。


 20分ほど電車に揺られると、秋葉原駅に到着した。

駅で待ち合わせとなっていたので、そのまま改札付近でデザイナーさんを待っていた。


 左手に付けた腕時計で時間を確認すると、あと10分ほどで待ち合わせの時間であった。

適当にスマホの画面を見て時間を潰していた。


「四宮さん。すみません、遅くなりました」


 俺がそんなことをしながら待っていると、待ち合わせ相手が到着した。


「おはようございます。いえいえ、時間通りですからお気になさらずに」

「ありがとうございます」


 彼女は宮崎琴美、俺が昔からお世話になっているデザイナーさんだ。

白のブラウスに黒のタイトスカート、明るめの茶髪をポニーテールにしていた。

確か、俺と同い年で大人のお姉さんのような魅力があると思う。


 それに、仕事もできるバリバリのキャリアウーマンだ。

今は自分のデザイン事務所を立ち上げて社長をやっているらしい。


「じゃあ、行きましょうか」

「はい、そうですね」


 俺たちはよく打ち合わせなんかで使う喫茶店に向かった。

ここはコーヒーも美味いし、雰囲気もいい感じなのだ。


 奥のテーブル席に案内されると、俺はコーヒー、琴美はカフェラテを注文した。


「じゃあ、早速ですけど始めますか」

「そうですね。今回、四宮さんからご依頼を受けて何パターンかデザインを考えてみたんです」


 琴美はカバンの中からタブレット端末を取り出した。


「倉木さんのイラストと、書道家さんの文字をつぶさないようなデザインにしたいと思いまして」


 タブレットの画面にデザインの候補を映し出して、何パターンか見せてくれた。


「いやぁ、さすがですね。いい感じに仕上がってると思います」


 どのデザインを見ても、俺の語彙力では表現しきれないほどに素晴らしかったのだった。

 

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