第83話 勝負の日

 あれから一週間ほどが経過した。

今日はWhiteにとって勝負の日となるであろう。


「さて、俺も気合入れないとな」


 今日はいつもより入念に準備をした。


 Whiteのメンバーとは、セントレルテレビがある最寄りの駅で待ち合わせをしていた。

俺は、準備を終えると電車に乗って待ち合わせ場所へと向かう。


 約30分ほどかけてメンバーとの待ち合わせ場所に到着した。


「もうそろそろだな」


 左手に付けた腕時計で時間を確認する。

もう少しで莉奈たちも到着することだろう。

俺は一応、グループに着いた旨を知らせるメッセージを送っておいた。


「俺まで緊張してきたな」


 本人たちが1番緊張しているに違いはないだろうが、俺もドキドキする。

この感覚も何年振りだろうか。


 ユメミヤが最初にテレビ出演した時に近い感情だ。

いや、今はそれ以上に緊張している。


 それだけWhiteには期待しているということである。


「お待たせしましたー」


 物思いにふけっていると、莉奈たちが到着した。


「おう、お疲れ」

「お疲れさまです。すごく緊張しますね」


 莉奈は表情を引き攣らせた。


「実は俺も緊張してる。でも、せっかくのチャンスだ。存分にやってきてくれ」

「はい」


 微笑みを浮かべた莉奈が口にした。


「さて、行きますか」

「そうですね」


 俺は莉奈たちメンバーを引き連れて、テレビ局へと向かっていく。

自分の心臓の鼓動が聞こえるほどに俺も緊張しているのが伝わる。


 テレビ局に入ると、そこには向井さんが立っていた。


「四宮さん。ようこそセントレルテレビへ」

「ありがとうございます。プロデューサー自らがお出迎えですか?」

「それだけ、四宮さんには期待しているということですよ。さ、どうぞ。ご案内します」


 向井さんから人数分の通行証を受け取ると、それぞれ首にかけた。


「ここがWhiteさんの楽屋になります」


 扉の前にはA4の紙にWhite様と書かれたものが貼られていた。


「時間になったら担当のものが呼びに来ますから。それまでゆっくりしていてください」

「分かりました。ありがとうございます」


 俺たちは扉を開けて中に入った。

そこは会議室のような感じで、テーブルと椅子、鏡に更衣室があった。

テーブルの上には飲み物と軽食が用意されている。


 メンバーはテレビ局に入ってからより一層緊張しているようであった。


「大丈夫か?」

「は、はい」

「まあ、気楽にやれ。これで人生が終わるわけじゃない。いつも通りやれば絶対に大丈夫だから」


 みんなの努力は見てきたつもりだ。

連日のレッスンも誰よりも真面目に受けているし、ファンからの反応だって悪くはない。

ライブも盛況である。


 向井さんが行けると判断を下したんだ。

長年テレビ業界にいるあの人の目は信じてもいいと思っている。


「そろそろ着替えた方がいいかもな。俺は外にいるから終わったら声をかけくれ」

「分かりました」


 俺は椅子から立ち上がると、廊下に出て扉を閉めた。

そして、大きく息を吐いたのだった。

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