第73話 もう1人の天才
綾辻さんは一通り目を通すと視線を上げた。
「面白そうですね。ぜひ、協力させていただければと思います」
「そうですか。ありがとうございます。それで、綾辻さんに書いて頂きたいのはこの部分になります」
俺は試作段階のポスターを取り出し『第一回 フルムーンアイドルオーディション』というタイトル部分を指さした。
「大丈夫ですよ。一つ確認なんですけど、僕の名前は出ますよね?」
「もちろんです。題字提供者としてお名前を載せさせていただきます」
「なら、大丈夫です。予算についてはご相談という事にさせて頂きます」
「分かりました。ぜひ、よろしくお願いします」
こうして、仕事の話はまとまり、握手を交わした。
「まあ、堅苦しい話はここまでとして、四宮さんはWhiteをプロデュースされているんですよね?」
「はい、そうです。Whiteをご存知なんですか?」
「ええ、アイドルライブとか倉木とたまに行ったりするんで。最近勢いがあるのが四宮さんのプロデュースされたWhiteだとか」
確かに、倉木は地下アイドルのファンの一面もある。
最近はあまり聞かなかったが、未だにアイドルライブに行っているようである。
「ありがたい事に最近芽が出てきましたね」
「正直、今回の依頼を受けたのはそれもあるんです。無名とまで言われたアイドルをあそこまで引っ張ったプロデューサーがどんな人なのかあってみたかったんです」
俺の名前はやっぱり一人歩きしているようである。
「でも、会って分かりました。あなたは倉木が言っていた通りの人ですね」
「倉木さんはなんて言ってたんです?」
「変わり者だけど、人を見る目と人脈がある努力の天才と」
変わり者が引っかかるが、否定できないのもまた事実であるから悔しい。
「綾辻さん、よかったら今度のWhiteのライブ来ませんか? 招待しますよ」
「え、いいんですか? ぜひお願いします」
「ええ、仕事でご一緒するならぜひと思いまして」
俺はカバンの中から一枚のチケットを取り出した。
「今度の週末のライブチケットです。関係者席になるので見やすいと思いますよ」
こんなこともあろうかと、俺はチケットを準備しておいたのだ。
「ありがとうございます。週末なら空いているので見に行かせて頂きます」
そう言って、綾辻さんはチケットを受け取るとジャケットの内ポケットに仕舞った。
「では、今日の資料などはメールの方にも送らせてもらいますね」
「そうしていただけると助かります」
こうして、綾辻さんとの初回の打ち合わせは終了した。
俺は会計を済ませると、綾辻さんと共に駅気へと向かう。
「すみません、ご馳走さまでした」
「いえ、仕事を頼んでるのはこちらですので。では、お気をつけて」
「はい、お疲れ様でした」
別の路線で俺たちは帰路に就いた。
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