第70話 審査員長ですか!?

 翌日、俺は朝から出勤する。

Whiteも順調に成長してきた。


 このままいけば一年で地下脱出も夢では無いだろう。


「四宮くん、ちょっといいかな」


 出勤すると、望月さんが社長室から顔を出した。


「はい、大丈夫ですよ」

「話があるから来てくれ」

「分かりました」


 俺は社長室へと入った。


「まあ、座ってくれ」

「失礼します」


 社長室の中央付近にあるソファーに腰を下ろした。


「最近、Whiteが調子いいみたいだな」

「はい、おかげさまで」


 Whiteの勢いはこの事務所では1番と言ってもいいだろう。

それに引っ張られるような感じで他のアイドルたちがついて来ているという所だろう。


「四宮くんを引き抜けてよかった。まさか、Whiteがあそこまで行くとは、君の先見の目はさすがだな」

「買い被りすぎですよ」


 Whiteは俺が望月さんに直談判してプロデュースさせてもらった。

おそらく、その出会いがなかったらここまで登ってはこれなかっただろう。


「それで、本題なんだがな。アイドルオーディションの開催の詳細が決定したぞ」

「お、遂にですね」

「これがパンフレットと資料だな」


 望月さんは机の上に資料を置いた。


「結構綺麗にパンフレットもポスターも作ってますね」


 俺はまじまじと資料を眺めていた。

大手出版社と言われる3社と7レーベルが協賛企業欄に載っていた。


「その3社を説得するのは苦労したよ」

「そうなんですね。僕に言ってくれたらさらっと編集長とか社長に声かけましたよ」


 大手出版社3社にはそれぞれコネがある。


「人の苦労をさらっととか言うなよ。もはや、笑うしか無いよな……」

「すみません。って、これはどういう事ですっすか?」


 審査委員長の欄には『四宮渉(チーフプロデューサー)』と書かれていた。


「何がだね?」


 望月さんはニヤニヤしながら言った。


「僕が審査委員長って大丈夫なんですか?」

「むしろ君が1番適任だろう。業界では噂になっているぞ。無名のアイドルをテレビ出演を決定させるほどまで引っ張った影の天才だとな」


 確かに、アイドル業界では俺はいい意味でも悪い意味でも有名である。


「アイドル志望の子は俺のことなんて知りませんよ」

「そんなことは無い。君はうちに何件の問い合わせがあったと思う?」

「何がですか?」

「四宮渉にプロデュースしてほしいという問い合わせだよ」


 俺はそれなりの企業には顔が効く。

そのため、その企業の人が俺の噂をすることがある。

そういうところから広がって行くのだろう。


「そんなのがあるんですか?」

「ああ、今のところは全部断っているがな。君はアイドル志望界隈でも有名人ってことを忘れるなよ」


 名前だけが一人歩きしている気がするが、俺の名前が様々な業界に広がっているようだ。


「だから、君の名前を全面に出しておけば人も集まるというわけだ」

「なるほど。客寄せパンダみたいなもんですね。まあ、それで集まるならいいですけど」

「それに、君の先見の目は信頼している。ぜひ、光るものを見つけてもらいたい」

「分かりました。やらせてもらいます」


 俺は審査委員長を引き受けることにした。

まあ、もう全面に出てしまっているので引き下がることはできないだろうが。


「ありがとう。一緒に次世代のアイドルを見つけようじゃないか」


 俺は望月さんと握手を交わす。


 当然、審査員の中には望月さんの名前もある。

『特別審査員』という枠組みだった。


「はい。絶対に面白い人材を見つけましょう」


 かなりの大型オーディションになることが予想される。

その中から選ぶのは大変かもしれないが、だからこそ俺がプロデュースしたいと思える子に出会えるかもしれない。


 俺はこの企画には割と期待していた。


「この資料はもらってもいいですか?」

「もちろんだ。持って行ってくれ」

「ありがとうございます。それと、このオーディションに一個面白いことを追加してもいいですか?」

「まあ、いいだろう。審査委員長は四宮くんだからな」


 俺の中には一つのアイディアが浮かんでいた。


「ありがとうございます。早速、企画書を作りますね」

「わかった。楽しみにしているぞ」

「では、失礼します」


 社長室を後にするのであった。

そして、自分のデスクに戻ると、俺はある人物に電話をかけようとしていた。

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