第56話 バンナン本社ビル

 時の流れというのは意外と早い物だと思う。

歳を取るとそれを一層感じるのではないだろうか。


 週末となり、俺はオフィス街を歩いていた。

今日は、午前中は事務所で仕事をし、午後からは営業という形で社長の許しを貰った。


「相変わらずデカいな……」


 俺は株式会社バンナンの本社ビルを見上げて言った。


 佐藤社長とは13時に約束をしていた。

今は13時の10分前、5分前には着いていた方がいいので、時間的にはちょうどいいくらいだろう。


「行くか」


 俺は本社ビルに足を踏み入れた。

休日の為か、社員の人たちは少ないようだ。


 まずは受付に向かう。


「佐藤代表と13時からお約束している者ですが」


 俺がそう告げると、受付嬢は一瞬驚いた表情を浮かべた。


「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「四宮渉と申します」

「かしこまりました。ご確認致します」


 受付嬢は内線で佐藤代表に確認を取る。


「お待たせ致しました。代表の確認が取れました。秘書が迎えに来るそうですので、もう少々お待ち下さい」

「分かりました」


 そして数分後、見慣れた顔が現れた。


「四宮さん、ご無沙汰しております」

「久しぶりだな。まだ、ここで秘書やってるんだな」

「はい。早速ですが、代表がお待ちです」


 俺は社長秘書とも何度か面識があった。


 確か、名前は綾瀬美羽。

黒髪をショートカットにして切れ目の美人系だ。

ピシッとスーツを着こなしている所も変わってない。


 どうしてこう、秘書というのは美人が多いのだろうか。

まあ、その辺は闇に触れることになりそうなので、辞めておこうか。


 エレベーターで上層階に上がって行く。

しばらくして、エレベーターが停止して扉が開いた。


「こちらです」


 美羽の少し後ろをついていく。


 そして、突き当たりの扉には『代表取締役室』と書かれたプレートが貼られていた。


「代表、四宮さんがお見えになりました」


 美羽がノックと共に言った。


「通してくれ」


 中から渋い声が飛んできた。


「どうぞ」


 美羽が扉を開けてくれて俺は中に入った。


「久しいな四宮」

「ご無沙汰しております」

「まぁまぁ、そんなに硬くなるなよ。座れ」


 佐藤さんは高級そうなソファーに座るよう促してくれた。


「失礼します」

「まずは、娘が世話になっているな。ありがとう」

「いえ、とんでも無いですよ。代表の娘さん、あんなに可愛かったんですね」


 娘が居るとは聞いていたが、実際に会ったことはなかったので美穂の事は知らなかったのだ。


「自慢の娘だよ。それにしてもまた暴れ回っているらしいじゃないか」

「さすが代表、耳が早いですね」


 俺は苦笑いを浮かべながら言った。

どうやら玩具業界の代表にまで俺の噂は回ってきているらしいのであった。

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