第57話 佐藤代表
俺の対面のソファーに佐藤さんは腰を下ろした。
「聞いたぞ、また色んな所で暴れ回っているらしいな。前の会社は辞めたのか?」
「はい、ご報告が遅れましたが、以前の会社は退職して今は望月さんの所でプロデューサーをしています」
望月さんと佐藤さんは確か面識があったはずだ。
アイドルオーディションの協賛企業の名前にバンナンも含まれていた。
「君が自由に暴れ回れるのも私の力もあるんだから感謝してもいいんだぞ?」
佐藤さんはニヤッと笑った。
「あの、それはどういう?」
「何だ、気づいていなかったのか? 君、前の会社は穏便に辞めなかっただろ?」
「そんなことまで伝わっているんですね」
確かに、前の会社は解雇されているので、穏便に辞めているかと言われたらそうでは無いだろう。
「君が何をやらかしたかは知らんが、色んな所から君の事務所に所属するアイドルに圧力がかかっていたんだ。望月のやつは悩んでいた様子だったが」
正直、知らなかった。
望月さんからそんな話は聞かなかったし、圧力がかかっているとは思わなかった。
「そう、なんですね……」
「そんな暗い顔するな。君らしく無い。大丈夫だよ。圧力には圧力で返してやるのがこの世のルールだ」
佐藤さんは黒い笑みを浮かべて言った。
そんなルールが存在したのは初耳だったが。
「君の事務所に掛けられた圧力は私がなんとかしといたから安心しろ」
「お手数おかけしてすみません」
俺は佐藤さんに頭を下げた。
「何を今更言ってるんだ。俺と君との仲じゃないか。あ、でもこれは娘には秘密にしといてくれよ」
「分かりました」
美穂は父親の力を借りることはしたくないと言っていた。
これは、父の力を借りたことになるかもしれない。
「まあ、君が居たら私の力より凄そうだがな」
佐藤さんは苦笑いを浮かべて言った。
「いやいや、佐藤さんに比べたら僕なんて全然ですよ。政財界とかに知り合いいないですし」
「政財界に繋がりが欲しいなら紹介するぞ。まあ、なんかの役にたつかは分からんがな」
「ぜひ、お願いします」
俺はとりあえず会ってみるというのがポリシーである。
会わないことには人脈を広げることは出来ない。
「じゃあ、近いういちにセッティングしよう」
「ありがとうございます」
そこから、しばら近況報告などをしていたら1時間ほど経過していた。
「じゃあ、私はこの辺で失礼します。佐藤さんもお忙しいとお思いますので」
「おう、久しぶりに面白い話が出来たわ。娘のこと、よろしく頼むぞ」
「もちろんです。では、また近いうちにお伺いいたします」
俺は代表取締役室を後にするのであった。
美羽と挨拶を交わした後、バンナン本社ビルを出た。
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