第43話 四宮がクビにされた訳

 そこから、莉奈とは一時間くらいは話しただろう。

普段は話さないようなことも話してしまった。


 これはかれこれ2ヶ月と少し前の出来事である。

俺がまだ前の事務所で働いていた時のことだ。


「次の企画持ってきたよ」


 俺はユメミヤにはどんどん新しい事に挑戦して欲しかった。

それが新規のファンの獲得につながると思っていたからである。


 しかし、保守的な上層部は俺のやり方を機に食わなかったのだろう。

俺は社内で徐々に煙たがられる存在になっていた。


「社長、四宮さんまた変な案件もってきましたよ」

「みたいだな」

「いいんですか? 好き勝手にさせて」


 四宮の行動は上層部主に副社長の目の仇にされていた。

自分たちには出来ない事を容易くやってのける四宮は上層部は気に食わない。

正に、出る杭は打たれるということだろう。


 この業界はただでさえ既得権益の集まりみたいなところがある。

新しい物についてこれないから否定する。

そうやって、自分たちが今まで築いてきた既得権益を守る。

悪しき風習である。


「でもまあ、実績を上げていることには違いないからな」

「しかし、これでは今までのわが社を否定されているのと同じですよ!」


 副社長は四宮を排除する方向へと進めて行った。

この判断が間違っているとは考えていなかったのだろう。


「お前の言っていることも分からなくはないがな」

「ですから、あのようなヤツはさっさとこの業界からいなくなってもらいましょう」


 この事務所では社長派閥より、副社長派閥の方が優勢である。

よって、副社長派に押された社長派は四宮渉の解雇を決めたのであった。


 まあ、この解雇自体が違法スレスレというか、ほぼ違法なのだが。



 ♢



「酷い会社ですね。てか、それ訴えれば勝てますよ」


 莉奈は少し膨れながらカフェラテをストローですすった。


「まあ、そうだよなぁ。あの時は俺もイライラしたけど、今は楽しいからあんまり気にしてないんだよな」

「業界の闇を感じますね」

「なんかごめんな、こんな話して」


 決して気分のいい話ではない。


「いえ、でもそれが無かったら四宮さんとは出会えなかった訳ですもんね」

「そうなるな」

「だから、私たちにとってはいい話です」


 莉奈は微笑みを浮べた。


「そう言ってくれると嬉しいよ」

「そういえば、最近はユメミヤ見ませんね」

「確かにな」


 ここ最近、ユメミヤのメディアへの露出が一気に減った気がする。

今度、業界に詳しい人に聞いてみるとしよう。


「これからも一緒に頑張りましょう」

「はい、よろしくお願いします!」


 俺は莉奈ろ握手を交わした。


「さて、そろそろ帰るか」

「そうですね」


 話しているうちに結構いい時間になっていた。

俺たちは会計を済ませるとカフェを後にした。

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