第26話 兄貴

 自宅に到着すると、俺は今日取った写真の中から抜粋して加工をかけていく。

テーマは『彼氏が思わず写真に収めたくなる瞬間』である。


「うん、いい感じになったな」


 俺は一通りの加工を終えると、一息ついた。


 そして、加工の終えた写真をWhiteのグループへと送った。


『明日の夕方にでも投稿してくれ』


 そうメッセージも送信しておいた。


『了解です!』

『ありがとうございます』

『分かりましたー』


 Whiteのメンバーからはすぐに返信があった。

今の若い子はずっとスマホを見ているのだろうか。


 まあ、そんなことはいいとして俺は次の仕事に取り掛かる。

撮影のカメラマンのことだ。


 福田さんからは気に入らなければ好きに選んできてくれていいと言われた。

きっと、俺が口出しをする前に先手を打って来たのだろう。


 俺はスマホの連絡先から『石川貴雄』の名前をタップすると電話を発信した。


『お疲れ様です兄貴、どうしました?』

「おい、兄貴はやめろって何回言ったら分かるんだよ」


 こいつはなぜか俺のことを兄貴と呼ぶ。

こちらとしてはヤクザや半グレじゃないんだから勘弁してもらいたいのだが。


『いいじゃないすか。俺にとっては本当の兄貴みたいなもんですし、兄貴が拾ってくれなかったら俺は今頃その辺で死んでましたから』

「調子のいいこと言いやがって」


 俺が貴雄と出会ったのは新卒から1年経った時だった。

仕事にも少し慣れ、社会の荒波に揉まれていた。 


 そんな時、当時はグレていた貴雄に出会った。

しかし、写真の腕はプロ級によかった。


 写真で食べていくことに反対されたことからの反骨心で、グレてしまったのだろうと俺は思った。

だから、当時は大学生だった貴雄をカメラマンとしてスカウトしたのだ。


 今となっては懐かしい話である。


「そんな昔のことはいいとして、仕事の依頼だ。頼めるか?」

『兄貴の依頼ならたとえ地球の裏までだって行きますよ!』


 相変わらずふざけたヤツだが、腕はいい。

確か、何かのコンテストでまた最優秀賞を取っていた気がする。


 最近は有名なカメラマンになってきららしい。


「ありがとよ。じゃあ、詳細はお前のスマホにメッセージ送るわ」

『了解っす! そういえば、聞きましたけど兄貴、事務所辞めたんじゃなかったんですか?』

「お前も耳が早いな。詳しくは今度、飯でも行って話すよ」


 どうやら、業界で俺が前の事務所を退職したことが広まって来ているらしい。

まあ、それも仕方ないと言えば仕方ないのだが。


 ユメミヤが大きくなったことにより、俺の名前と事務所もそれなりに一人歩きしていたのだ。


『兄貴の奢りっすか?』

「ああ、給料入ったらな」


 そして、貴雄との通話を終了させると、詳細な情報をメッセージで送っておいた。

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