松浦 由奈の電車日記

松浦 由奈

第1話 残念なお兄さん

松浦由奈は、友達が好きだ。だから、今日も電車に乗る。

「さぁ、今日はどんな人がいるのかな?」

私は人間観察が好きだ。なぜなら、電車には色んな人が乗っているから。

さてと、今日乗っている人はスーツのお兄さん達に新聞を読んでいるおじいちゃん。そして、ふわふわ髪の毛の可愛いお嬢ちゃん。本当に、とっても可愛い、、、、ってこんなに見ていたら捕まってしまう。

そんな中でも今日の一番はあのお兄さんだ。すっごいイケメンさんなのに脚を開いてずーっと寝ている。しかも服装はまるでウォーリーのようだ。大事そうにカメラをぎゅっと握りしめている。どこに行くのだろうか。私は、妄想を膨らました。ほんとによく寝ているなぁ。寝過ごしてしまいそうだ。でも、おどおどしている姿も可愛いのかもしれない。

でも、私が乗っている間には起きないのだろう。

「次は▣▣。▣▣。お降りの方は左側が開きます。」

あっ、この駅だ。あの人は寝ているだろうが最後に人目見ておこうと彼に視線を向けた。

なんと彼は起きていた。

しかも立っていた。

私は目を見開いて、凝視した。私の彼への感想は、残念なイケメンさん。

彼は立ったのに、少し伸びをしてからまた座った。なんだったのだろうか。

「まもなく、▣▣。▣▣。」

 ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタン。

徐々にスピードが遅くなり、ついに止まった。

ドアが開く。たくさんの人が電車になだれ込んでくる。私はその人たちを待ってから電車を後にした。

最後に短い時間だったが、出会えたあのお兄さんを見送ろう。

そう思った。

そこにもうお兄さんの姿は、なかった。

「えっ!」

私は大きな声を出して、辺りを見回した。そしたら、お兄さんは階段をのぼっているではないか。こんな田舎の駅になんの用だろうか。訳が分からなかったが、私はその後をついて行った。そして、一緒に改札をくぐり今日のお目当てと再会を果たした。

「ゆーなぁー!久しぶりだねぇー」

相変わらず元気なやつだ。そんな彼女が大好きで仕方がない。久しぶりの再会に会話を弾ませていたら、お兄さんは消えていた。

「まさか、幽霊?」

「なに?また変なこと言って。そんなところが面白いんだけどね。」

やばい。彼女に聞かれてしまった。こんなんだから、友達は大切にしなければ。

そうそう、今日の目的はなんと言ってもサクラだ。ここで、桜の会が開かれるのだ。歩いて、10分。話に夢中になって、3秒くらいで着いた。

気がした。

桜の会と言っても、売店がちょっと出るぐらいの小さなイベントだ。なので来る人は、だいたいおじいちゃんやおばあちゃん、そして子供達ぐらいだ。私も友達に誘われなければ、絶対に行かなかったであろう。

「桜綺麗だねぇー!」

本当に綺麗だ。

「でもさ、花より団子って言うじゃん。だから、たい焼き食べに行こぉー」

そう言って彼女は手を引き、走った。

走ったぁー!?!?!?!?!?!?!?

案の定、私はなにかに突っかかりおっとと。

よろけて、どてーん。

やべっ。

ごめんなさい。ごめんなさい。

心の中で何度もその呪文を唱え、ついに言葉を発した。

「ごめんなさい。お怪我は、ありませんでしたか?」

「大丈夫ですよ。こちらこそ止まってしまっていて、すみません。」

当たってしまった、男性に目を向けた。

なんと、駅のお兄さんさんだった。

「幽霊じゃなかったのか……」

「なんて言いました。」

聞かれてしまったらしい。

「すみません。独り言です。

本当にごめんなさい。では、また。」

「はい。それでは。」

お兄さんは、意外とお兄さんだった。

彼女は手を引き、歩いてくれた。もう一度、お兄さんを見るために振り返った。

お兄さんは、微笑みカメラを桜に向けた。それはまるで女神のようだ。いや、女じゃないな。じゃあ、男神か。そんなのあるのか。ぐるぐる回る。まあどうでもいいことだ。

もう一度、私の彼への感想は、そのままでいてください。きっと、そんなところも好きになってくれる女性が現れるでしょう。だから、染まらないで。幸せになってください。

彼女とたい焼きを買った。たい焼きのしっぽをかじる。たい焼きは、暖かかった。

バイバイ、お兄さん。少し印象が変わったよ。ちょっと✤✤だった。✤✤✤✤✤だった。

桜は、一枚一枚ひらひらと落ちていく。

私の気持ちも落ちていく。

春は、ほがらか。

気持ちのいい風に包まれて

私は叫びながら笑っていた。

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