シブツさがし
碧麗 翠
第1話 いらない
「あんたなんて生まなきゃよかった」
突然告げられる、自身の存在を否定する言葉。唐突でありまた、幼子である私には当然意味は理解できない。
だが、表情や言葉にのせられた感情で、何となくその言葉の矛先は私でありそしてひどく嫌悪しているということが分かった。
口を開けたままこちらを睨みつける母親である女性と目が合い、すぐに逸らす。そして考える。
自分は母親を怒らせるようなことをしただろうか、ご飯はきちんと全部食べたし、おもちゃもきちんと片づけた。トイレもきちんと流したし、歯も磨いて、パジャマのボタンも不器用ながらすべて自分で止めた。あとは寝るだけだけど、今はまだいつも寝る時間になっていないのでそれも問題ない。思い当たる節がない。なのになぜそんな目をこちらに向けるのだろうか。
私がそんなことを考えている間に、女性は近づき、私を押し倒す。そして私の上にまたがってくる。
「お前がいたから……」
嫌でも目が合ってしまう。電気を消しているので暗いのだが一層、女性の顔は暗く見える。
私は叫ぶことも、泣くことも、また動くこともしなかった。できなかった。ただただ目の前に写る光景がこの小さの脳みそでは理解することは出来なかった。というよりもまだ怒られている理由を探していたというのが正しい。
すると、その女性は次の行動に出る。その人の両手が、私の顎に向かってくる。しかし到達したのは顎ではなく、首。生きるために必要な呼吸をするための気道。生きるために必要な血液を送るための血管が通っている、小さな首に、大きな両手で強く握る。道が全て塞がり、また痛みも襲ってくる。
そして私は、ようやく理解した。私は怒られているのではない、殺されようとしているのだ。
しかしもう遅かった。気づくのが遅かった。大声も出せず、ただただ眉をひそめて、歯を食いしばり、やめてという目を送ることしかできない。しかしながら、力はより一層、強くなっていく。女性の顔は変わることなく、ただただ苦しむ私を睨んで
いる。
「お前なんか! 死んじまえ‼」
女性に見えていたものが、悪魔のような表情へと変貌する。少なくとも私の目にはそう映った。
そして、それが、最後に見た、光景、だった…………。
暗がりの中。パチッと目が覚める。窓にかかるカーテンの隙間から、光が差し込む。外はもうすでに明るい。太陽はもう昇っている。毛布をベッドの奥に押しやって、頭を抑える。
「変な夢見た気がする」
具体出来にどんな夢であったかは、分からないが、何となく嫌なものだったということだけが分かる。
そして、自分の体温で暖かくなった寝床から立ち上がる。背を伸ばして、目をギュッと強く瞑る。そして、カーテンを3センチぐらい開けて、自分の机に座り、パソコンに電源を入れる。
ポチッ。ブウゥウウウウン。
押し込むと電源ボタンの周りが青色に光り、起動音が静かな部屋で静かになる。そして大きなモニターに『
自分の好きな壁紙に、いつも遊ぶゲームアイコン。たまに遊ぶゲームアイコン。そして、まったく遊ばないゲームアイコン、その他いろいろが表示される。モニターの右下を見て、現在時刻と日時を確認する。
8:23 2022/5/13
そう表示された数字を見て、いつものネットの世界へと入って行く
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