肩を預けて!

 千秋と千春には謎が多い。灰塵モードもその1つ。

 こんな大事なときに灰塵と化すだなんて、厄介過ぎる。

 何とかできないものだろうか……。


「おそらく、何か大きなショックを受けたのでしょう……」

「……ですが大丈夫です。まだなんとかなります……」

「……灰塵モード継続時間は10秒。寮旗争奪戦の残り時間は70秒!」


 ありがとう、有益な解説。ありがとう、野良メイド3人衆。

 俺はGツインズの快復をきっちり待ってから声をかけた。


「千秋、千春。頼むよ。君たちだけが頼りなんだ!」

「し、仕方ないですわね、純様」

「私たちだけが頼りとあらば、仕方ないですわよ」


 千秋と千春に肩を預ける。あと60秒で旗は2枚。これなら何とかなる。

 思えばここまで本当に長かった。でもこれで決着だ!

 とは、ならない。寮旗争奪戦、一筋縄にはいかない。




 今、文字通り俺の肩を担いでいるのは千秋と千春。通称Gツインズ。

 その胸は、1歩ごとに揺れている。


(10秒も待たされたんだ。ちょっとくらいいいじゃないか!)


 と、ほんのちょっと魔がさした。それは紛れのない事実。

 俺はそーっと、2人の背から脇を通すようにして手を伸ばしていた。

 その先に何が待っているのかをちゃんと理解してのことだ!


 そう。それがGカップだ!

 寮旗争奪戦の勝利は目前。Gカップも目前!

 我慢しても仕方がない。いただけるものはいただく!


 と、俺たち3人に声援が飛ぶ。真壁とすばる、野良メイド3人衆。


「秋山、もう少しだ! 頑張ってくれ」

「千秋と千春も、私たちの分も頑張ってね」

「あと少しです……」 「……少しです……」 「……です」


 5人とも心から俺の勝利を後押ししてくれている。

 Gツインズだって同じだ。必死になって俺の肩を担いでくれている。

 それなのに、俺は……。


 俺は、なんて愚かなことを考えてしまったんだ。

 Gカップ。たしかにそれはとても魅力的な代物だ。

 だが、本当に今だろうか? それは絶対に違う!


 寮旗争奪戦の目的は、寝床の確保! ノマドにならないためだ。

 そんな神聖な戦いの最中に、俺は何をしようとしていたんだろう!

 Gカップにわざと触れるなんて、絶対にしてはいけないことだ。


 みんなの願い、みんなの夢、みんなの学園生活。

 それと俺自身の一時の快楽を天秤にかければ、答えは1つだ!

 俺は既のところで思いとどまり、そっと手を引っ込めた。


 そして、11個目のスイッチを押した。旗が静かに揚がっていく。

 いい眺めじゃないか! これこそが俺たちの親愛の証なんだ!


「うん、その調子。3人ともあと少し」

「あと50秒。時間は充分にあるよ」

「頑張ってください……」 「……ください……」 「……さい」


 思いとどまってよかった。本当によかった。

 もし、欲望のままに2人の胸に触れていたら……。

 たとえバレなかったとしても、この感動は味わえなかっただろう!


 俺たち3人は、茶箪笥を視界におさめながら次のスイッチに向かった。

 もちろん今度は、ちゃんと掘りごたつの天板の位置も確認した。

 決して焦らず、慌てず、驕らず、1歩ずつゴールを目指した!


 だけど、気付かなかった。そこにある物体が転がっていることに。

 そのある物体には、それは見事なフレンジがあしらってあった。

 千春が茶箪笥から取り出した、偽の寮旗だ! なんでこんなところに!


 と思ったとて、あとのまつり。それが俺の足に絡まるのは必然だった。

 足に偽の寮旗を絡ませた俺は、バランスを崩してしまう。

 そして、転倒しそうになる。本日2度目の転倒!


 だが、運よく2度目の転倒は免れた。

 倒れそうになったときって、藁をもすがるというだろう。

 俺の場合、藁ではなくて、Gカップだったに過ぎない。


 それはそれは、とてもやわらかかった。


 なんて大きいんだ! なんてやわらかいんだ! ちょっと汗ばんでる!

 全てが俺にとってははじめての体験であり、感動だった。

 俺が欲情を抱いた対象は、かくも素晴らしきものだったのか!


 という感想と同時に、転倒を免れた本当の理由を知って、俺は愕然とした。

 まず、やわらかかったGカップは、一瞬のうちにカチンコチンになった。

 おかしいと思い周囲を見れば、千秋と千春が石像になっていた。


 その胸はくっきりと俺の手形にえぐれている! なっ、なんだ?


「こっ、これは! スタチューモード……」

「……欲望にまみれた男性におっぱいをもみもみされたときに発動する……」

「……宮小路院家の生娘の究極奥義。それが、スタチューモード」


 はっ? えっ? スタチューって女神像? おっぱい? もみもみ?

 野良メイド3人衆が詳しく説明してくれたけど、何を言ってるんだ。

 全然分からない。分かりません……。


 分からないけど、これって拙いんじゃないか!


「なるほど。秋山はやはりおっぱい好きってことなんだね」

「それにしてもこの状況でよくもまぁ、もみもみできたものです」

 おっぱいって言うな! もみもみって言うな! 不可抗力だから!

________________________

 純くん、正直に言ってごらんなさい!


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る