絶対にある!

 真壁は、さらに続けた。


「2手に別れるっていうのもあるとは思うけど」


 そうだよ、それだって! 俺と真壁が下に、他は上に。

 これで平和じゃん。ノープロブレムじゃん!

 真壁、さすがは俺のイケメン大親友!


 自分の意見が通るのって、やっぱり気持ちいい! サイコーかよ。

 真壁と2人でってのはいただけないけど。


 と、みんなが「うーん」と唸りながら顔を見合わせる。

 ときどき首を傾げたり、肩をすくめたり、ラジ……。

 終始無言だったけど、はなしはまとまったようだ。


「俺の公式ルームメイトがそこまで言うならしかたないね」

「いいわ。ここは全員一致で下ってことにしましょう」

「貴方たちを2人きりにさせるわけにはいきませんもの」

「……」 「……」 「……」


 な、何だよ。みんな真壁の言いなりかよ。

 誰も俺の言うことを聞かなかったくせに。

 真壁が下って言ったら、ころっと意見を変えやがって。


 俺の意見というより、真壁の意見が通ったみたいだ。


 はじめは真壁に心の平和をもたらしてもらったと思った俺。

 こうなってみると、俺の心は平和どころか煮えくりかえりそうだ。

 おいしいところを全部持っていくのは、いつもイケメンってことか!


 それに、俺と真壁を2人きりにさせないとか、おかしなことを言う。

 俺たちは大親友同士なんだから、おかしくはないだろうに。

 それとも、あれか?


 俺たち2人になったらよからぬことを考えるとでも言うのか?

 更衣室に隠しカメラ設置するとか夜這いとかの相談?

 そういうの、俺はおいといて、真壁は絶対にしないぞーっ!


 って、なんで俺、真壁を庇う……。


 野良メイド3人衆に至っては、また何も言わない。

 無言のプレッシャー。それが1番きついんだって。

 イヤなんだって。辞めてくれ、辞めてくださいっ!


「では、参りましょう……」

「……真壁様、私たちがお供致します……」

「……いざ、下へ!」


 野良メイドがしゃべった。ありがとうございます。けど、おかしいだろ!

 3人とも、まるで真壁が新しい主人かのように接している。


 真壁には資格がないんじゃなかったのか?

 漢の中の漢じゃないとダメなんじゃなかったのか?

 ああっ!


 あれ? 今の真壁って、漢の中の漢じゃん。イケメンじゃん。

 野良メイド3人衆には、めっちゃ都合のいい存在じゃん。 

 真壁が新しい主人になるのは、極めて自然な流れじゃん。


 こうしちゃいられない! 野良メイドは何としても俺に仕えてもらう。

 俺は、慌てて広いところに移動して、ヒップリフトをはじめた。

 笑顔を作り、野良メイドたちにさり気なくアピール。余裕綽々だ。


 だって俺には心当たりがある。母さんが旗を隠しそうな場所が分かる!


「ま、そう慌てなさんな。もう、時間の問題だし」

 母さんが旗を隠しそうな場所、それは和室にある。

 階段を降りて和室を見つけたらビンゴだ!


「そうだね、時間の問題だね」

 真壁が同意。これで他の6人も押し黙ることだろう。

 と思ったが、千秋と千春、さらにはすばるが慌てて言った。


「制限時間まであと30分を切っています」

「なるほど。時間の問題ですね」

「制限時間を過ぎたら1年間ノマド確定だね」


 制限時間だって? 聞いてねーよっ! ノマド確定? イヤ、絶対にイヤだ!


 野良メイド3人衆がポケットからデバイスを取り出す。

 どうやら3人は俺と同じで制限時間があるのを知らなかったようだ。

 3人とも寮長になるつもりがないのだろう。俺にはあるけど、読んでない。


「たしかに18時までとあります。あと、25分ほどです……」

「……ところで、純様は筋トレだなんて現実逃避、ですか……」

「……男としてサイテーの行為でございます」


 違うから。現実逃避じゃないんだって! 君たちにアピってるんだって。

 ここへきて、まさかの逆効果だーっ! どうしよ、どうしよ、どーしよーっ!


「あぁーっ、多分違うよ。知らなかっただけで、アピってるだけだと思うよ」

 と、真壁が言った。さすがは俺の大親友。さすがはイケメンだ。

 真壁の解説の通りです、はい。アピってるのまで見透かしてる。


「アピってるのでしたら、無意味ですね……」

「……即刻、お辞めになって……」

「……さっさと探し出してください!」


 このときの3人衆はよくしゃべった。

 俺は即時、筋トレを辞めて階段を降りた。




 1つ下の階。覗いてみるが違うみたい。床がふかふかのカーペットだ。

 ここには絶対にないと断言できる。幸い、階段はまだ続いている。


「もう1つ降りるとしようか」

 俺にすれば当然の判断だけど、そう思わない者も。真壁が説得してくれた。


「俺の公式ライバル・秋山純。ここの可能性もゼロではないのでは」

「まーまー。僕の公式ルームメイトくん。もう1つ下、行こうよ」

 すばるは渋々ながら、下へ行くことに同意してくれた。


 だが下に待っていたのは、またもやふかふかのカーペットだった。

________________________

 真壁ひかる、みんなの心を掴んでいるようです。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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