コンセンサスは大事です!
俺は言った。
「真壁!」
真壁の「うん!」はうれしそう。こんなに慕ってくれて、冥利に尽きる。
真壁が女子だったらカノジョにしたい。イケメン男子なのが残念。
それから「千秋!」と、直ぐ右を見て言った。
動揺させまいと、なるべく笑顔を繕った。
間髪入れずに「はい!」という短い返事。近くとも華やかだ。
今は俺の腕にしがみついてるお陰で脱ぐこともない。言葉も少ない。
妄想癖と露出癖さえ封じてしまえば、理想のカノジョと言ってもいい。
それを見ていた千春が、よせばいいのに俺の左腕にしがみつく。
千春は一瞬で挙動不審モードへとチェンジした。
それでも、走る脚を止めることはなかった。
微笑みながら「千春!」と言うと「……な……なな……ななな……」の返事。
調子狂うけど気にしてもいられない。千春なりの頑張りは伝わってくる。
それがうれしい。いつかはエレガントモードの千春と手を繋ぎたい。
脚を止めぬまま後方へと振り返る。
千秋と千春が必死に支えてくれてるから走りながらでも恐怖はない。
背後を走る3人のメイド服の前掛けに縫い付けられている名札を確認。
そして「りえさん。それから、久美子さんと範子さん……」と問いかける。
横を走る2人と目ではなし、「はい。何なりと!」と中央のりえがまとめる。
横の2人が深く頷く。本当に息の合った野良メイド3人衆だ。
もし3人が俺を新しい主人に迎えてくれたら、夜のとばりが下りたあと……。
どんなご奉仕をしてもらえるのか、楽しみだ! そんな日は絶対に来る!
そして「すばる!」の直ぐあとのこと。
『俺にはやらなきゃならないことがあるんだ!』と続けるつもりだった。
それを拒んだのは、他ならぬすばるだった。言う。
少々食い気味に「純くん。君というやつは……」と、泣いていた。
泣きながらすばるは続けた。それが俺にはとてもうれしかった。
「……いいだろう……それでこそ俺の公式ライバルだ」
最後は爽やかなイケボ。さすがはイケメン巨乳女子のすばるだ。
すばるは今、俺のことを公式ライバルと呼ぶ。
いつかはカノジョになってくれたら「ダーリン」って呼んでもらおう!
そう遠くない将来、絶対にそうなってみせる!
「うん。ありがとう! みんなも、ありがとう!」
俺は笑顔! みんなも笑顔! これで全員の同意を確認した。
もう、迷うことは何もない。あとは俺がビシッと決めるだけ!
俺は、思いっきり息を吸い込み、思いっきり吐き出した!
「全員、ストーップ!」
全員が一斉に静かに立ち止まる。そして集まってくる。円陣が組まれる。
俺から右回りに千秋、真壁、範子、りえ、久美子、すばる、千春の順。
千春の右にいるのは当然、1周回って俺。
このあと、俺はみんなに宣言した。
「俺は、朝礼台の寮旗を探し出す。みんなにも手伝ってほしい!」
決まった! 絶対、完璧、パーフェクツだ! チーム純の完成だ!
みんなで力を合わせて、朝礼台に寮旗を立てる!
と……思ったのは大間違い。大滑りだった。誰も同意をしてくれない。
そればかりか、順番に俺を罵倒する。ただ独りを除いて。
「純様……お考えが甘いようです……」
えっ? 華やかではあるが同時に冷ややかな物言い。
今までの千秋とは全く違う雰囲気だ。背中に冷や汗が垂れる。
「全くだよ。僕らだってリスクを背負うんだからね!」
真壁の言う通りだ。みんなの脚を止めたのは、俺の独断。
みんなにはリスクに見合ううま味は全くない。
「メイドが主人にご奉仕するのも、無償ではございません」
「それなりのリターンがなければ、そもそも主人とは呼びませぬが」
「秋山純、貴方が漢の中の漢なら、この局面に独りで立ち向かってください」
なんて辛辣な。けど等価交換が取引の基本型なのは事実だ。
みんなにリスクを背負わせる以上、ちゃんと見返りも必要。
それを語らずして協力を仰いだ俺が青二才だった。
次のすばるは、意外なところに反応していた。
「……あ……ああ……秋山……だって……」
はい。秋山です。すばるは今更そこに驚いているのか。
そういえば俺、面接のときに苗字を名乗っていない。
「純様。私とて、野望を捨てたわけではありませんわ」
千春の野望って何だろう。分からない。
けど、野望を抱いているのなら、俺と敵対するのは明白。
つまり、俺には味方なんていなかった。
全員が全員、伝説の首席プリンシパル希様とやらが残した旗を狙ってる。
そしてそいつはすばるの憧れの人で、俺の母さんで間違いない。
俺は「分かった、全員で探そう……」と、力なく言った。
「ただし……」
「……最初に旗を探し出した者が……」
「……朝礼台の主人となり……」
「……ゆくゆくは……」
「……首席プリンシパルとなる……」
「……あ……あき……秋山……希様やあの方と同じ苗字……」
「……恨みっこなしの闘いですわ!」
このあと、俺たちは朝礼台へと移動した。
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バトルロイヤルの様相です!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いいたします。
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