セレクション

 俺たちは走りに走った。ノマドとならないために。

 俺の右には大親友の真壁、左には俺を公式ライバルと呼ぶすばるが併走。

 2人ともイケメンだし、学園の地理に詳しい。けど全く違うタイプ。


 真壁は周到な準備を重ねる努力型で、パンフレットを熟読している。

 頭も良く、各棟のトイレの位置まで把握しているからすごい。

 中学で女子に混ざってファッション雑誌を読んでた姿を思い出す。


 対するすばるは経験値にモノをいわせる行動型といえる。

 バカだけど中等部出身だけあって学園の構造を身体で覚えている。

 男装しても隠せないほどの巨乳を揺らして走る姿はガン見に値する。


「すばるくん、僕たちが向かっているのは子棟のようだけど」

「よく分かったね、さすがは俺の公式ルームメイト!」

 えっ? 2人はいつのまにルームメイトになっていたんだ?


 ルームメイトといえば、寝食を共にする間柄。男女であればまるで恋人同士。

 2人の関係がそこまで進んでいたなんて、さすがはイケメンの真壁だ!

 まぁ、真壁が誰と付き合おうが俺の知ったこっちゃないけど……。


「行ってどうなるの? きっともう全ての部屋が埋まってるよ」

「いいや。子棟の寮長は悪趣味でね、セレクションを行うはずさ」


 すばるには地の利がある。寮長の趣味はパンフレットに載っていない。

 それを知り得るのは学園内部の人間のみ。すばるに従うのが賢明だろう。

 けど、セレクション? 聞いたことがない。一体、どんなイベントなんだ?


 俺はちらりと真壁を見る。『教えてくれ』の合図だ。充分に伝わった。

 けど、真壁は首を横に振る。どうやら真壁も知らないことのようだ。

 代わりに教えてくれたのがメイド長のりえだった。


「セレクション。つまり、寮生の選抜試験ということですね」

「その通り。子棟の寮長は生徒会長。全てのフェスでの優勝を狙っている」


 フェスというのは聞いたことがる。片高の行事で、全部で52ある。

 その全てに優勝しようだなんて、かなり欲張りなやつに違いない。

 そんなやつの元での寮暮らしに耐えられそうもないが、ノマドよりはまし!


「なるほど。寮生として役に立つかどうかを試されるってことだね」

「うん。さすがは俺の公式ルームメイト、真壁ひかるだ!」

 そうとも、俺の大親友でもあるんだ。真壁の頭の良さは、役に立つ!


 2度目のルームメイトという言葉があの変なやつをムダに刺激した。

 そいつは地味に速足になり、俺の右腕にしがみついてくる。

 やわらかな感触が俺を刺激して、ジリジリと熱い。


 それと同時に、地味だった千秋が華やかモードに変化する。

 りえが一瞬、足を止めた。表情こそ変えないがビビッてるんだろう。

 千秋は高笑いのあと、華やかに言った。


「ルームメイト、いい響きですわね、純様!」


 同伴受験した者同士はルームメイトとなるのが決まり。

 華やかで超絶美少女なお嬢様の宮小路院千秋。

 それが俺の同伴受験者で、ルームメイトだ。どやっ!


 と、ここまでは完璧だけど、千秋はいただけない。双子の妹の千春もダメ。

 2人には、妄想癖がある。露出癖もある。脱いだら、ダメでしょう!

 俺は、横に並んでもまともなカノジョが欲しいんだ!


 ま、今の俺にはまだルームがない。千秋はただのメイトに過ぎない。

 カノジョとはいえない。よかった、よかった!


 けど代わりにノマド生活が待っている。それは絶対に避けたい!

 俺は、何としてでもルームを手に入れたい。何としてでも、だ!

 カノジョが欲しい。それが俺の志望動機だ。絶対に譲れない!


 ただし、それは、絶対、完璧、超絶まともなやつに限るんだーっ!


 部屋を手に入れるには、セレクションで合格しないといけない。

 けど、俺の成績はオール1だし、運動神経だって中の下くらいだ。

 男子相手に走ってまともに勝てるのは真壁くらいなもの。


 その真壁には明晰な頭脳という大きな武器がある。

 すばるにも、地の利や人脈といった武器がある。

 そんな2人がルームメイトとして手を組もうとしている。


 それに比べて俺は何もない。あるのは、変な双子と野良メイドのIDくらい。

 ルームメイトにも何もない。あるのは、妄想癖と露出癖くらい。

 そんなものが、何の役に立つというのだろうか。


 だけど俺は、挑まなくてはならない。

 ノマドにならないために。部屋を手に入れるために。

 セレクションに挑まなくてはならないのだ! これは、無理ゲーだ!




 いや、待てよ。あるぞ、あるじゃないか。1つだけある!

 セレクションを回避する方法で、俺の志望動機に繋がる道でもある。

 気付いた瞬間、俺の全身に電撃が流れた。これだ! これしかない。


 俺はみんなに順番に目で合図を送った。先ずは俺の大親友の真壁。

 お次は俺の腕にしがみつくルームメイトの千秋。腕がジリジリ熱いのは我慢。

 それからその双子の妹の千春。


 野良メイドのりえ・久美子・範子の3人。

 そして最後に俺を公式ライバルと呼ぶ女、すばる。

 みんなも目を黒くしている。これなら大丈夫! 戦える!

________________________

 秋山純が選んだ戦いとは? そして、先代の名とは?


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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