変なのばっかです!
分かったことは2つ。
寮旗争奪戦により、寮長が決まること。
それが俺とすばるの本当の闘いとなること。
けど、寮長って……。
「初老の男性が勤める……あれか? (はぁはぁ)」
雨漏りを屋根に登って治す痩せこけた頑固親父風の寮長。
この道40年の大ベテラン。それが俺の抱く寮長のイメージ。
「片久里学園は生徒の自主自立を推奨している。寮長も生徒から選ばれる」
「なるほど……寮母は? 寮母も生徒から……選ばれるのか? (はぁはぁ)」
ふくよかなおっかさん風の寮母。得意料理はかつ丼、しかも特盛!
卒業後に会いにいくとにっこり笑って変わらぬ味を提供してくれる。
俺は「もう、さすがに食べきれないよ」と言いながらも箸をつける。
すると一口目から涙が溢れ、気が付けば完食! いいや「おかわり!」
俺は、片高が寄宿制だと聞いたときからそんな未来を思い描いていた。
「寮母ねぇ……いないけど、副寮長ならいるよ。もち生徒だけど!」
「副寮長だって? (はぁはぁ)」
俺の顔はつい難しくなってしまう。それを見た真壁がしたり顔で言った。
「ははは、呼び名は兎に角、とても重要な役割だよ」
「重要……どうして副寮長が……重要なんだ? (はぁはぁ)」
寮長とは違う役割があるんだろうか。
「秋山が寮長になったら、僕を副寮長にしてくれるんなら、教えてあげるよ」
「あぁ、分かった。それで構わないよっ」
と、俺は安請け合いした。副寮長の役割を知らなかったから。
その直後、真壁はとんでもないことを口にした。
「副寮長はね、寮長のカノジョが勤めることになっているんだ!」
は? 今、なんて言った? カノジョとか言わなかったか!
「カ……カノジョだって! (はぁはぁ)」
俺は、片高を志望した理由を思い出した。それは、カノジョを作ること。
俺の横に立っても気後れしないカノジョ!
ひょっとして、この寮旗争奪戦って俺のためのイベントじゃないか?
寮長のカノジョが副寮長なら、副寮長は寮長のカノジョだ!
俺が寮長になれば、副寮長が俺のカノジョになってくれる!
なんておいしい展開だ! 願ったりだ!
俺は「よし」と短く言ったあとで、1度、息を整えた。
そして、みんなが注目するなか、腕立てしながら続けて言った。
「俺……寮長に……なる! (はぁはぁ)」
そのあとで思い出した。俺が寮長になったら、真壁が副寮長になる。
つまり、真壁が俺のカノジョになる! あれっ? そんなことって……。
だって真壁はイケメン。男だ。男がカノジョって、あり得ない!
ひょっとすると、俺はとんでもないことを宣言してしまったんじゃ?
その証拠に、メイド3人衆が難しそうな顔で俺を睨みつけている。
拙い、拙いって。どうしよう、どうしよう、どうしよう……。
このままじゃ、嫌われる。同性愛者だと思われ、距離をおかれる。
そうしたら、メイド3人衆にアピれない……。
と、急に背中が軽くなる。千秋が降りたようだ。
そして千秋は俺の目の前に回り込んできて、手を差し出してくる。
邪魔だ、どけっ! ゆれるすばるの巨乳が見れないじゃないか!
けど俺はしかたなく、腕立てを辞め千秋の手を借りて立ち上がった。
繋いだ手がジリジリと熱い。何かを吸い取られているようだ……。
「さすがは純様。志もご立派でございます!」
と、千秋は自分のことのように誇らし気に笑う。
千秋は俺が寮長になりたい理由を聞いたらどう思うか。
ちょっと後ろめたい。しばらくは打ち明けないでおこう。
「純様が寮長なら、私も副寮長になります!」
千秋、それって! 俺のカノジョになってくれるってことか?
ルームメイトだし、華やかモードの千秋なら大歓迎だ! むしろラッキーだ!
手がジリジリと熱いのはいただけないが。
でも、真壁と先に約束しちまった。千秋を副寮長にすることはできない。
千秋ごめん。俺は男同士の約束を果たすために、真壁をカノジョにする。
あれ? そうだよ。真壁は男。カノジョにはできないんじゃないか?
「ちなみに副寮長は、2人まで任命できるよ!」
と、真壁がうれしそうに言う。爽やかな笑顔だが、その裏に強かさが見える。
カノジョが2人いれば男が紛れてもおかしくないと顔に書いてある気がする。
おいっ、そーじゃねーよ。男はカノジョじゃねー。真壁は男だからなしだ!
「いいではございませんか。私達は既にルームメイトの間柄ですから……」
と、華やかモードの千秋。さらに続ける。
「……そして、寮長と副寮長の関係になった私達は……」
俺たちは?
「……あ、あんなことや、こ、こんなことまで……」
出たっ! エロい言いまわし。キスとかハグとか、そっち方面のこと!
俺としてはーっ、いずれはーっ、そういうのもありーって、思うなーっ!
「……毎朝毎晩のキスやハグでは飽き足らず……」
え? 足りないの? この展開、デジャヴ?
「……私は純様を想い、毎晩、機織りをして反物を純様に捧げます……」
えっ、えーっ! 恩返し?
「……すると純様は私に服を新調するのですが、それは真っ赤な嘘……」
なんだ、こいつ。華やかな顔をして何を言い出すんだ。
「……正直者にしか見えない服だと言って無理矢理に私を丸裸にし……」
混ざった。裸の王様が混ざった!
「……私のちゃんとGある胸が弾むのを見て……」
この件、どこかで聞いたことがあるような、ないような……。
「……エロい妄想をするのですね……」
一緒じゃん。結論、姉妹で一緒じゃん! しかも胸、弾むのも!
千秋の妄想癖も千春と負けず劣らずでいただけない。
どうして俺の周りの美少女達は、変なのばっかなんだ!
________________________
変なのでもいいじゃないですか、秋山くん!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いいたします。
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