影の人物

 ひょっとすると、すでに新しい主人に仕えているのかもしれない。

 背後の人物は気になる。だけど、今、向き合うべきはりえ達だ。


「りえさんっていったな。こいつはしばらく俺が預かるよ」

「それは……本当に助かります」


 と、りえが深々と頭を下げる。それに合わせて左右の2人もぺこり。

 直って俺に尊敬の眼差しを注ぐ。千春の面倒をみることの難しさを物語る。


 そのときにはもう、千春は下着姿だった。

 りえ達が千春に近付き、千春に触れる。またモードチェンジ!

 あーこれ、いい。すごくいい。刺激的!


 などと思ってる場合じゃなーい。りえ達と向き合わないと。

 そのりえ達は主人でもない半裸の美少女に服を着せている。

 まずは3人衆をてきとーにほめそやすことから。


「こいつの元を去るのに、服を着せたりして、感心だよ」

「はい。千春様を恨んでいるわけではありません。主人を変えるだけです」

 思った通りだ。3人は決して敵対的ではない。これなら協力は得られそう。


「と、いっても俺も不慣れでさ。そこでお願いがあるんだが!」

「私達にできることなら、何なりといたしますよ」

 よしっ。これで言質は取れた!


「じゃあ、ID交換しませんか! なんかあったときに助けて欲しい」

 俺はしれっとそう言った。


「はい。では、今日からはお友達ですね」

 こうして、俺はあっさりメイド3人衆とお友達になった。




 そのあと直ぐ、3人衆に隠れている人物に目をやった。

 千春は俺のそばにいる限りほぼ挙動不審モードだ。

 ちょっと鬱陶しいけど、ときどきエレガントモードに変わる。

 ずっとエレガントモードでいられるようにならないものだろうか。


 そうなればまぁあーっ、カノジョにしてやってもぉおーっ、いーけどぉーっ!


 なんといっても、エレガントモードの千春には俺にはないものがある。


 それより今は、ずっと気になっていること。

 メイド3人衆の背後にいるイケメンの気配を漂わせているヤツのこと。


「いい加減、出てきたらどうだ……」


 ずっと隠れてこちらの様子を見ているだけで、全く動こうとしないヤツ。

 ひょっとすると、メイド3人衆の新しい主人かもしれない。

 だったら炙り出すしかない! 対決だ!


 まだ確証はないけど、俺はその名を呼んだ。


「……隠れてないで姿を現したらどうだ、真壁!」

 ちょっとどや顔。あの深紅のイケメンオーラ、真壁以外には考えられない。

 ガキのころからずっと一緒に過ごしてきたんだ。間違えない!


 多分……間違いはない……きっと……おそらく……。

 違ってたらごめんなさい……知らない人だったら、許して……。


「はははっ。別に隠れてなんかないよ」

 と、余裕綽々に顔を出したのは、予想通り、真壁だった。


 やったーっ! 的中だーっ! メイド3人衆に隠れていたのは真壁。

 深紅のイケメンオーラを俺が見間違えるはずはない。どやどやっ!


「自分のメイドにID交換させるお人好しは、真壁くらいなものさ」

 と、俺はどや顔をかます。


 俺だったら、もしメイドがいたら独占する!

 その笑顔も何もかも俺だけに向けさせ、他人とID交換なんてさせない!

 たとえ相手が大親友であっても、だ。どや顔の俺様に、真壁の一言が炸裂。


「いや、3人衆は僕のメイドじゃないよ!」

 なぬっ。俺の予想が外れた……。

 一緒に行動しているんだから絶対に新しい主人だと思ったのに。


 じゃあ一体、誰が新しい主人だというのだ?

 どうして真壁はメイド3人衆と行動を共にしていたんだ?


「そんなはずは……」

「事実だよ。向かう先が一緒なだけだよ」

 嘘ではなさそう。けど、確認は大事。


 俺はそっとりえに目をやる。りえは優しく頷く。

 あっ、本当だ。真壁はイケメンのくせしてメイドも養えないのか。

 まぁ、それが普通といえば普通か。真壁は珍しくしゅんとした顔で言った。


「僕は、新しい主人として不適合なんだってさ」

 ノスタルジックな雰囲気もイケメンならではだ。


 真壁を差し置いて新しい主人となる人って、どんな人?

 爽やかなイケメン? オシャレなイケメン? イケボなイケメン?


 あー、どれも俺には当てはまらない。チクショウ!

 爽やかとかオシャレとか、真壁そのものじゃんか。チクショウ!


 そんな真壁でも退けられるだなんて、どんな適合条件なんだ?

 イケボか? だとしたらあいつが新しい主人なのか?

 バカでもいいのか? イケメンだったら女でもいいのか?


「一体、どんな適合条件なんだ?」

「それは、僕にでなくてりえさん達に聞きなよ」

 全くその通りだ。俺はりえ達の方に顔を向ける。


「私達が新しい主人に求めるのは、漢の中の漢というだけ」

「お、漢の中の漢だって……」

 ワイルドさってことだろうか。たしかに真壁には当てはまらない。


 俺にもチャンスはありそうなものだけど……。

 このナリが邪魔をして、俺本来のワイルドさは影を潜めている。


「そのような方に巡り会えたなら、色々とご奉仕しちゃいます」

 一体、どんなご奉仕がなされるのか、謎だ。

 聞くのは野暮ってものだけど、気になる! 絶対に体験したい!

________________________

 メイド稼業も苦労が絶えないようですね。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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