同伴者確定!

 列が進んでいく。受付はもう目の前だ。

 会場入口にはゲートがある。駅にある自動改札機よりも大きい。

 通過するときにカメラで個人認証しているのが分かる。


 2つ前の男がゲートを潜るときには歓迎の声が聞こえた。


「ようこそ田中実君。どうぞお通りください」

 機械の声だ。さすがは片高。最新鋭の機器の導入が早い。


 続けて、1つ前の子がゲートを潜ろうとした。

 その背中はとても地味。そのせいか、異変が起きた。

 地味子がゲート内を半分まで行ったとき、無情にも扉が閉じた。


「申し訳ございません。お通しすることはできません」

「そんな。妹が心配なんです。受験だけでもさせてください」

 何事? 


「出願がありませんと……」

「私にもメールはきました。その日に妹が倒れてしまい、出願できなくて」

 出願がありませんって言ってた。妹さんのためって、訳ありのようだ。


「そう言われましても、出願もなく受験していただくわけには……」

「そんな……どうしよう」


 出願せずに受験したいだなんて、地味に厚かましい。

 けど、妹のためという境遇を聞くと放っても置けない。


 後姿は地味子だって、前から見たら違うのかもしれない。

 メールがきたということは受験資格を持っている。

 少なくとも看板を持っている無資格の人よりは美少女に違いない。


 だったら! と、俺は賭けに出た。

 地味子は飛び切りの美少女で俺のルームメイトに相応しいに違いない。


「あのー、どうです? 俺の同伴ってことで!」

 俺は意気揚々、地味子の後姿にドヤ顔をかます。

 地味子は俺の方に振り返りながらパンと手を叩いて言った。


「同伴ですか! その手がありましたね」

 声色から大よろこびしているのが伝わってくる。地味ではあるんだけど。

 さらに、正面から素顔を見た。よろこんでいる。ただし……。


 少し垂れた目に気品はなく、親しみやすい。一言で表せば、正面も地味!

 賭けは失敗だったか? けど声をかけたのは俺からだから、今更断れない。


「が、頑張って一緒に合格しましょう!」

 頼む。俺の顔を見て気後れしてくれ……。


「はい。ありがとうございます!」

 地味に微笑んだ。気後れしている様子はない。

 けどこの顔、どこかで見たことがあるような。

 劣化しているように感じるけど。うーん、思い出せない……。


「では、参りましょう!」

 と、地味子が俺の腕にしがみついた。や、やわらかい。

 さっき、真壁に身体を寄せてこられたときと同様だ。


 その瞬間に……。地味子の全てが変わった。

 気品に満ち溢れつつも華やかな立居振舞いになった。


「ようこそ秋山純君、宮小路院千秋君。どうぞお通りください」

 えっ?




 信じられない。今、俺の横にいるのは華やかな宮小路院千秋。

 しかも、合格すればルームメイト確定。カノジョ候補と言っていい。

 千秋は俺の横にいても気後れしていない。


 それどころか、組んだ腕をぐいぐい引っ張る。

 決して地味ではない胸をぐりぐりと押しつけながら。

 わざと? わざとやってる? サービス満点じゃん!


 千秋のことを意識すると、腕がジリジリ熱くなる。融けてしまいそうだ。

 女子を横にしてこんな感じを覚えたのははじめて。

 そもそもこんな感覚自体、真壁でしか味わったことがない。


 急に華やかになった千秋に周囲が騒然としたのは言うまでもない。


「な、なんて尊い絵面でしょう……」

「もはや、溜息しか吐けないわ……」

「これが片高のレベルなのね……」

「入学は諦めて、お家に帰って寝よう……」


 と、どれも驚きと落胆や嫉妬が入り混じっている。

 お手製の看板を提げた女子たちは、1人またひとりと帰路に着いた。


 


「驚いたわ……ひょっとして、あなたって……」

 と、千秋。俺がなんだって言うんだ?


「……いいえ。そんなはずないわね」

「は、はぁっ……」

 何が言いたいか分からないけど、腕のジリジリが止まらない。


「兎に角、行きましょう」

「うん。そうしよう」

 歩き出した俺たちの背後から、機械の声がした。


「ようこそ、真壁ひかる君。どうぞお通りください」

 真壁も無事、ゲートを通過。

 こうして俺たちは、入試の受付を済ませた。




 しばらく進んだところにカウンターがある。その上にはデバイス。

 立て札があり『お1人様、1点のみお取りください』とある。

 俺はデバイスを2つ取り、千秋と真壁に渡した。


「はい、これ」

「ありがとうございます」

「ありがとう、純」


 このタイミングで千秋が俺の腕から離れた。

 その瞬間に千秋は、地味子に戻ってしまった。どういうしくみだろう。

 それは分からないが、真壁が千秋に絡んでいく。


「おやおや、千秋君。随分と地味だね」

「はい。私は特定の条件を満たさない限り、地味なんですよ」


「なるほど。噂通りということだね」

 噂って、何だろう? 千春と仲が悪いとかは関係なさそうだし。

 男嫌いというのも当てはまるとは思えない。他にも噂があるのだろうか。


「多分その噂、少し修正が必要でしょうけど……」

「ふーん。僕にはちっとも修正が必要とは思えないけど!」

 と、真壁は妙に千秋に突っかかる。


「そうでしょうか。あなたもお試しになりますか?」

 今度は千秋までムッとした表情を作る。

 そして、そろそろと地味に真壁へと詰め寄る。


 男嫌いという噂の千秋。このまま放っといたら喧嘩になりかねない。


「僕は構わないけど!」

 真壁も煽る煽る。もう、放っとけない。


「まぁまぁ。2人とも、まずは入試突破だよ!」

 と、俺は慌てて自分用のデバイスを取りながら言った。

 2人も同意してくれた。


「純様がおっしゃるなら、そういたします」

 純様って、ありかも! 今は地味だけど、さっきの華やかな千秋なら、あり。


「僕だって、絶対に合格してみせるよ!」

 真壁も妙に対抗心をたぎらせている。一触即発だ!




 入試会場内ではデバイスからの指示に従わなければならない。

 しかも、指示の内容は他言無用とのことだ。


 このあと、俺は2人と離れる。

 デバイスから俺に出された指示は、3階へ行けというもの。

 真壁と千秋への指示はどんなものだかは、分からない。

________________________

 華やかなお嬢様に様付けされたら、舞い上がりますよね!


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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