ルールを縛って小説書く。

うつ伏せ キマユ

夢、見知らぬ人、紅葉。

「これは夢だ。」


俺は、眼前の光景に向け宣言した。

夢の中で、身体の自由が得られる事を知っているからだ。

今日は公園か。つまらん。ベンチで目が覚めるまで時間を潰すか。


それにしても、ずいぶんと古い公園だな。

遊具も錆びていて、俺の座るベンチも嫌な音を立てている。

ただ、見事なのは隣にあるモミジだ。…綺麗に色づいて、眺めるのも悪くない。


「貴方も紅葉を楽しまれているのかな?」

うおっ!ビックリした。って誰だ?この爺さんは。

まあいい。時間潰しに付き合ってもらおう。

「そうです。立派なモミジですね。」

「私はね、長い事近くに住んでいてね。ここで葉の色付きを見るのが好きなんだ。」

「良いご趣味ですね。」


他愛ない話をどれだけしただろうか。

それでも、目が覚める時間にはあと少しって所か。

他人とする話なんて、俺は持ち合わせていないし。世界情勢でも覚えておけばよかったか。

「時に、青年よ。」

「はい。どうしましたか?」


「貴方は、忘れる事の出来ない大切な思い出はおありかな?」

「忘れる事の出来ない…ですか…」

正直、思いつかない。

辛い思い出ならいくらでも出るが、大切な思い出?

平凡な俺の人生に、そんなものは…

「ほっほっほ。」

「青年よ。まだお若いんだ。これから見つかるじゃろうて。」

どうだろう。栄えある未来なんて想像出来ない。

「私はね。」

「このモミジの木が、大切な思い出なのだよ。」

「ここで家内と結ばれ、家族団欒の幸せを噛みしめたものだ。」

「だが、先日家内が亡くなって、最後にモミジを見たくなってな。」

「そこで…だ。」

「願いがあるのだが、聞いてはくれないか。」

何だ?唐突に真剣な顔をして。


「モミジを、託したいのだ。」

「え?それは、どういう…」

「そろそろ夢も覚める頃合い。どうか。頼みましたぞ。」



「…はっ!」

今までの夢とは違う、不思議な夢だった。

爺さんの言葉が、妙に記憶に残っていて変な気分だ。

気晴らしに散歩でもするか。


…おい、何なんだよ。

まるで誘導されているように、足が勝手に動く。

今進んでいる道も、知らないはずなのに知っている。

このまま進むと、やはり…


公園、だよな。

記憶通り、モミジの木も紅葉を迎えて立派なもんだ。

俺の座ったベンチもあるし、人もいるな。爺さんか?

いや、あそこにいるのは…若い女性だ。

まあ、せっかく来たんだ。

紅葉を楽しむ一人として、挨拶でもしておくか。

「貴女もモミジ、お好きなんですか?」



まさか、この女性が俺の妻になろうとは誰も思うまい。

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