025.中傷。
あのような者で務まるのか。
聞こえてない訳ではなかろうに、へらへら笑っていて。
分からないのでは?
色が定めたとはいえ、まだ若いもの。隠すのに必死なんじゃないかしら。
ざわざわ、ざわざわ。耳障りな声が耳朶を打つ。いつものことだ、と空はまるで聞こえていないかのように微笑んでいる。本題は既に話し終えているから、会議はもうほとんど終わりの状態にある。残っているのは、ここで帰れば逃げたと取られるから。
そういえば、空についての噂を耳にしましたよ。
おや、それはどんな。
頻繁に街に降りては民と交流しているとか。
態と空に聞こえるように言い合って、適合者達は笑う。空に向けられるのは悪意にも似た嘲笑であるが、空は何も言い返さない。
まったく困ったものですな。いつまでも自覚がないのでは。
この世界の頂点にあるべきものに自由などないというのに。
所詮はまだまだ子供。
いくら腹の立つような台詞でも、空は何も言ってはいけない。そんなことをすれば、連中をますますつけあがらせるだけ。空のことを何も知りはしない適合者達に何を言われようとも平気だと、空は心を虚ろにする。虚ろに、笑う。
くだらないな。
唐突にそんな声がして、まるで水を打ったように、ざわついていたその場がしんと静まり返った。その場にいた者達が声のした方を向く。そこにいるのは、氷よりも冷えた瞳の、金と銀を相纏う漆黒に身を包んだ青年だった。くだらない、と再び青年が告げる。対して大きくもない青年の声は、けれど確かに部屋に響く。多くの者が目を向ける中、青年は無表情で平然とその視線を受けていた。
いい大人がつまらない事で時間潰しかい。ここには随分と暇人が多いようだね。
青年がはっきりと皮肉を口にする。先刻まで囁き合っていた連中は、ばつが悪そうに青年から視線を逸らした。青年のたったそれだけの言葉ですぐに態度を変える、取るに足りない世界の断片者達。
会議が終わったのなら僕は帰らせてもらう。
誰も何も言わないのを見て取った青年が、音も立てずに立ち上がる。部屋に響く革靴の音、その場にいる誰も彼を引き留めようとしない。引き留められる訳がない。ふと、音が止んで青年が肩越しに振り返る。無機質な視線が真っ直ぐ、ずっと微笑んだままの空に向けられた。
小さな世界の不適合者。君も暇なら帰れば。
何でもないようにそれだけ言って、青年はさっさと行ってしまう。声を掛けられたことに驚いて、けれどそれを表情には出さず空はすぐに椅子から立ち上がった。
では、私もこれで失礼しよう。また次の機会に。
そう告げると、好奇な視線が向けられる中、空はゆっくりと青年の後を追った。青年に次いで出て行く空を引き留める者はいない。皆ただ一様に驚いているだけだった。
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