太った私は仕事を求めます

吸血公爵様こと、ヴラド様のお屋敷での快適な生活は続きます。端的に言えば食っちゃ寝の生活なのです。


そんな日常をしばらく送った時の事でした。


それはいつもと変わらない朝食での風景です。私は食事を取り、ヴラド様はそれを見ているだけなのです。


その時、ヴラド様の眉がぴくりと動きます。何かおかしな事でもあったというのでしょうか。


「カレンよ……」


「どうかされましたか? ヴラド様」


「貴様、少し丸くなったのではないか?」


「……な、何をおっしゃいますか? ヴラド様。そのような心当たりは……あれ? 心当たりしかないような」


 食っちゃ寝の快適な生活を送っているものでしたから。太ったとしてもなんの不思議はありません。人間は吸血鬼ではないのですから、普通は食べたら太るのです。スタイルを維持するためにはそれなりの努力が必要なのです。


「鏡を見てみろ」


「鏡?」


 近くに鏡がありました。確かに以前より丸みを帯びたような気がします。


「風呂場に体重を計る計りがある。日々乗ってみろ」


「……はい」


 こうして私は体重を計る事にしたのでした。


 ――すると、確かに日に日に、以前より自分が重くなっていっている事が確認できたのです。


 ◇


「カレン様、朝食を」


「い、いえ……結構です」


 その日の朝もまた、執事のヴァンさんは私に豪勢な朝食を出そうとしてきました。それはもう、栄養の豊富にありそうな、高カロリーな朝食です。


「ど、どうかされたのですか! カレン様! どこか体調が悪いのですか?」


「い、いえ! そんな事はありません! 決して! 体調が悪くはないのです。お気になさらずに」


「……そうですか。ならよいのですが」


「私もヴラド様と同じく、ハーブティーを出してください」


「かしこまりました」


 私はヴラド様と同じく、ハーブティーを飲むのでした。


「どうしたのだ? カレンよ。随分と小食になったではないか。食欲がないのか?」


「そうではありません。ヴラド様」


「……そうか。もしかして太った事を気にしたのか?」


「ギクッ……な、なぜそれを」


 私は図星を突かれ、動揺しました。まあ、誰の目から見ても明らかだったかもしれません。


「そんなの俺にはお見通しだ。俺だけではない、ヴァンも気づいている。無理をするな。無理なダイエットは体に良くないのだぞ」


「で、ですがヴラド様。こう、自堕落な生活をしていては体にも精神にもよくありません。私はもう十分に休暇を頂きました。植物でも栄養を上げすぎるのはよくない事なのです。何事もやりすぎはよくありません。これ以上自堕落な生活をしていると体が錆びてしまいます」


「うむ……そうか。カレンよ。貴様は何を望む?」


「何かやる事はありませんか? 私は仕事をしたいのです。適度な仕事は人生を充実させるのに必要なものなのです」


「ふむ……仕事か」


「何なりとお申し付けください」


 私はただの令嬢ではない。


「わかった。考えておく」


 こうして、私はお屋敷で働く事になったのです。



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