生贄令嬢、なぜか冷酷な吸血公爵閣下に溺愛される~義妹が代わって欲しいとせがんでくるがもう遅い~
つくも/九十九弐式
義妹の代わりに生贄になることに
ある日、スペンサー家に届いた一通の手紙により、私の人生は一変してしまう事となります。
私の名カレン・スペンサー。表向きはスペンサー公爵家という裕福な公爵家の令嬢ではあるが、それは表向きの事である。実際のところ、カレンは養子であり、貰われた子だ。それ故に義母と義妹――ローラからは過酷な扱いを受けてきました。
食事を満足に与えられないことなんてざらにありました。露骨な嫌がらせを受けた事もあります。
しかし、落ち込んでばかりもいられません。落ち込んだって現状は何も変わらないのです。私は強引にでも前向きに生きてきました。
私が泣けば、それだけ義妹と義母が喜ぶことになります。
ガシャン。
私の食事がテーブルから床に落ちました。
「あら……ごめんあそばせ」
義妹――ローラは意地の悪い笑みを浮かべる。当然のようにわざとである。よくある食事の風景であります。
「うっかり、手が滑ってしまいましたわ……ふふふっ」
私は何も言いません。何か言っても無駄なのです。
「なんですの……何か言ったらどうですの! 面白くないですわね!」
ローラは不機嫌そうに声を荒げます。何か言っても無駄なのです。火に油を注ぐだけなのだという事を私は知っています。相手にしないのが得策なのです。
「まあ、いいですわ。拭いておきなさいな。カレン。私、これからピアノの先生のレッスンがあるんですの……。とてもそんな片付けをしている暇などありませんわ。あー、忙しい、忙しい」
ローラはそう言って、ピアノがある自室へと向かっていった。
こんな事は日常茶飯事でありました。これが私の日常風景だった。私はローラがわざと落とした食事を片付けた後、二階の屋根裏部屋に行く。そこが私の部屋であった。
「にゃー……」
屋根裏部屋には猫が住み着いていた。私はこっそりと餌を与え、その子を飼っていいます。
猫がすり寄ってきます。
「……何? 心配してくれているの?」
「んにゃー……」
猫がすりすりとすり寄ってくる。勿論、猫がそんな心配をしているはずもありません。私がそう思っているだけの事です。
「大丈夫よ……私は平気だから。あなたがいるもの」
「にゃー……」
こうして私は薄暗い物置で猫と過ごすのでした。過酷な日常の中で私が癒される至福のひと時でありました。
そんな時、私の人生に転機が訪れるのでした。
◇
スペンサー公爵家に届いた、一通の手紙。その手紙が私の人生を一変させる事になるのでした。
「な、なんですの!? これは!」
「ど、どうしたの!? ローラ!」
その手紙を届いたローラと義母は大慌てをしていました。一体、どんな手紙でしょうか。
「お母さま! これ見てよ! あの吸血公爵家として有名なツェペシュ公爵家からの手紙よ!」
ローラは大慌てをしていました。ツェペシュ公爵家、吸血鬼の公爵がいるとして有名な公爵家であります。吸血鬼、血を吸う化け物(モンスター)として有名な存在です。
当然、ツェペシェ公爵家は周囲からは疎まれ、不気味がられていました。わざわざ近づく者など皆無でした。
手紙にはこう書かれていました。
『スペンサー公爵家からツェペシュ公爵家に一人生贄を差し出せ。さもなくばスペンサー家を末代まで続く呪いをかける。期限は一週間とする』
末代まで続く呪い。吸血鬼として恐れられているツェペシュ公爵家の事である。ただの脅しだとはとても思えのです。
「ど、どうしましょう? お母さま」
「ど、どうしよう……ローラ」
義母と義妹は大慌てでした。ですが、ある事に気づき。にたり、と笑みを浮かべます。
そして視線は私のところへと向かうのです。
「な、なんですか?」
「そうよ。そうよ。カレンが行けばいいんじゃないの。ぷっふっふ。あなたは生贄にぴったりよ」
「ええ。そうね。カレンを今まで養育してきた甲斐があったわ。あなたは吸血公爵の生贄になるためにうちにいたようなものだものね。うっふっふ」
二人は醜悪な笑みを私に浮かべてきます。二人の魂胆はわかりました。私を犠牲にする事で、厄介払いができる上に、スペンサー家に呪いがかかるのを防げるのです。
一挙両得というわけでした。
立場の弱い私に拒否権などありませんでした。渋々、私は生贄として差し出される事を受け入れるのです。
ですが、私はただ生贄として差し出されるつもりはなかったのです。その日が来るまで私は必死に準備を重ねました。
そして一週間の時が過ぎます。
こうして運命の日がやってくるのです。吸血公爵家と恐れられるツェペシュ公爵家に生贄として向かう日がやってきました。
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