立ち止まり屋

突き当りを右折、それとも左折するのか? どうする?

生きようと、思えば、誰でもできる。ただ、俺にとっては、生きることが『死』の体験なんだ。

この感情に誰かが付けた名前も、君たちは、どこかで聞いているはずか?

――――『死』を前にして。

俺には、死ぬ権利がある。これから死ぬということ以外、死んだことも、死んじまった記憶も、何もない。

これまで、死ぬ方法は、一つだけと決められていた。だけど今は、違う。

――――『生』を終える。

死ぬのは嫌いではなかった。死ぬまで生きていたい。そう思う感情も確かにあった。でも、まだまだ俺には、生きるための力がないのだった。

なんとかならないのか? 死んでしまうなら、せめて、楽しいことだけでもやりたい。そう思うのが人間らしい感情だ。

俺には、他の生き物のような心がある。他の人間のような心ではないが、そこにはやはり、この俺以外の心はないだろ、と、俺は思う。

心がある、というのは、やっぱり力になる。

でも、俺にはそういう力はないんだ。これは、俺のプライドのせいでもある。俺は人間にはならない、という。人間でないなら、これを生きようと、言う権利は、俺にはない。だから、やっぱり生きたい、という、この感情は、俺にとっては、なんの意味もなさない。

これが、ただの『死』だとは、気が付かないのが『生』なんだろうな。

俺はそれ以降、その感情により、死にそうで死にそうにない。

俺が初めて死のうとしたのは、確か六歳の時だった。母から、

「お前、死にそうになったら止めた方がいいよ」

と言われたからだ。確かに止めようとしたけど、結局止められなかった。

その時、俺はもう死んだと思い込んでいた。そして、俺の中で、何が行われたのかも気が付かないまま、俺は、死んでしまった。死んだ後に母の反応を見て、何が起きたものかと混乱している間に、俺は知ることになった。

そう、俺は死に、そのときに、俺は、生まれたのだ。死んでしまったものが、死なねば、誰も生きられない。だから、俺は、また、生きても、死ぬだろうと、そう、思っていた。そして、俺は、死なねばならない、そう思っていた………………はずだった、のだが。

母の言ったとおり、俺は生まれ変わったのだ。死に、そして生き返った。そのとき、俺の精神も生まれ変わるのではないか、と俺は思い込んでいた。それから、自分の精神が死んでゆくのを見ながら、生まれ変わった。

それなのに、俺は生き返った。生きている。何か、俺が死に追い込まれたような虚無感や、苦しさもあるが、それ以上に俺は生き返った、という幸福感があった。

その幸福感は、俺の死をもたらした。そして、俺は死に、俺は生き返った。

俺の精神的な病は、母が俺に、

「死んだらまた生まれ直せばいいじゃない」

と俺に言ったことだった。

その言葉を聞いたときは、俺は驚愕した。この言葉は母が俺を救ったという信頼に関わるものだと思った。何かの間違いだろう、と思った。俺が死んで、こんな始末になるなんて。自分が、死んだことがある、と知っている精神の病は、俺が、生きることも、死ぬことも、できなくする。こんなことなら、生まれてきて何の不思議もなかった、と言っておけばよかった。

そしてその俺の言葉は俺自身でも信じられなかった。しかし、母は俺が死んだことを俺に伝えた。そして、父からも俺が生き返ったことを聞いた。

俺は家族に何もできなかった。母は俺の母親であり、父は俺の父親なのだから。

両親は、何もできなかった俺を救ったことで、何も感じなかったのだ。俺には、それだけが救いになった。

どうにかしてこの状況を切り抜けられればいいのだが、そう思えてくると、あえて、俺はそれをしなかった。何もできなくなった俺が、人前に出てこないよう、気を付けながら、俺は世間体を無視せずに、生きたいと思った。

そしてそんな俺は、橋を渡ろうとして、川に落ちた。そして、溺れる精神が終わって行く。俺は、この記憶を、病に書きながらそして、俺を送り出した。

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