奇跡

アルカトラズの収容者達は自らが受刑者となって、この場所で日々生活したいと語っていたという。

「だって、望みが叶うことなんて奇跡じゃないか」

ボートは揺れているが、波は思ったより静かだ。

ウィルは月のない空を見上げて、それから首を回してあたりを警戒してから、また言った。

「本当は、誰にも言わず秘密でやっていた話だけどな。起こってしまったことを望んでいたことだと思い込めば、実現不可能なことなんてないのさ。しかし、あんたには何もかも率直に言えても、直接伝えられるのはもう最後だろう」

そう言って、ウィルが、彼の妻を見た。

「それで、あんたはこれからどうするんだ?」

妻は何も言わなかった。

「あんたなら、もう分かってくれるだろうよ」

「……何が?」

「自分の人生が」

妻は、無言でウィルを見つめた。

「……ええ。でも、本当にごめん」

妻の声は消え入りそうだった。

ウィルは、すぐに何かを言った。

その言葉は、すぐに闇に飲み込まれてしまった。

……でも、

そんなことより、自分のために妻を犠牲にして生き残れるということが気がかりで。

「……なんだ。もう、あんたが謝る必要なんてねえじゃないか」

ウィルは妻の身体を強く抱きしめた。

「……」

彼女は何も言わなかった。

ただ、その温かい身体を。

「――まあ、もうその話はおしまいだ。あんたはもう、人間やめたほうがいいんじゃねえの? こんな状況でさ、あんたが自分の人生を終わらせるしかねえじゃねえか」

そして、彼女はもう自分が何も見ることも聞くことも出来ない人間だったことを知るともなく思い知らされる。

彼女の体に電気が走った。

……そして……

≪Welcome to him≫

――ウィル=グランドル……

その後、ウィル・グランドルは、彼女がアルカトラズから受けた死刑執行命令により、地獄の牢獄に入る。

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