第11話 京都で京都の観光番組を見る件

 鴨川かもがわデートの夜の事。


「ここは、有名な清水寺きよみずでらです。……」


 僕たちは、二人揃ってリビングでテレビを見ていた。

 来客が来てもいいように、三人は座れるソファーだ。

 この2LDKの部屋が、東京に居た時の半額以下なのだから、

 つくづく東京は土地の値段が高い。


「清水寺って、京都で一番有名じゃないかと思いますけど……」

「けど?」

「正直、地元民的には、少し微妙ですよね」

「まあ、観光客うじゃうじゃってのもあるし。ね」


 清水寺は古くからあるお寺で、観光名所だ。

 もちろん、清水寺大好きな地元民もいる。

 しかし、知名度が高くなり過ぎたせいか、逆に「清水寺はそこまで……」

 という人も多い(僕調べ)。


「私たちとしては、やっぱり、北野天満宮きたのてんまんぐうですよね」

「想い出の場所だしね。でも、県外の人には意外と伝わらないんだよね」


 なんせ、京都には神社仏閣が山ほどある。仕方がないのかもしれない。

 

「続いて。伏見稲荷大社ふしみいなりたいしゃです。……」

「伏見稲荷はいいんだけど。ちょっとだけ、遠いよね」

「言うほどじゃない気がしますけど。洛中からの距離だとそうですね」


 延々と続く赤い鳥居、千本鳥居せんぼんとりいで有名な伏見稲荷大社。

 あの、摩訶不思議な風景は人を引き付けるものがあるらしく。

 ドラマや映画、アニメなどで舞台になることも多い。


「そうそう。なんか、ドラマとかで一瞬で、伏見稲荷に移動してることあるけど」

「距離感覚的には、ちょっとおかしいですよね」


 というのも、京都市民あるあるトーク。


「こちらは、鹿苑寺ろくおんじとなります。金閣寺きんかくじとも呼ばれ……」


 鹿苑寺、あるいは金閣寺。こちらも、日本での知名度はトップクラスだろう。

 なんせ、全体が金ぴかという外装が珍しいし、写真映えもする。


「北野天満宮からだと、普通に歩いて行けるよね。高校の頃、部活でよくあの辺り行ったなあ」


 ちょうど、「なつかし焼き」に入り浸っていた頃。

 僕の所属していた部活である生物部では、水質調査のために金閣寺付近にある

 川から水を取ったりして、色々調べたことがある。

 通っていた高校も、金閣寺から徒歩二十分というところ。


「そういえば、よく、水質調査の話してましたよね」


 ああ、そういえば、そんな話もしたっけ。


「確かに、定期的に測定したけど。よく覚えてるね」


 当時の彼女と言えば、小六~中二の間。

 そんな些細な話をよく覚えているものだ。


「それは……裕二君の話を聞くのが楽しみでしたから」

「そっか。そ、それは、ありがとう」


 そんなにも慕ってくれていたのかと嬉しくなる。


「今度、金閣寺、行ってみようか」

「いいですね。水質調査した川とかも行ってみたいです」

「じゃあ、そこも案内してあげるよ」


 というわけで、その内に金閣寺に行くことは決定。


「こちらは、八坂神社やさかじんじゃです。年末年始は、初詣客で……」


 京都には神社はそれこそ、たくさんある。

 その中でも八坂神社は有名で、初詣の時は人で身動きが取れないほど。


「毎年、北野天満宮だったから、八坂神社って実は行ったことないんだよね」

「私は、県外とか外国からの留学生、よく案内してますよ」

「あー、そっか。確かに、そっちの方が知名度高いもんね」


 しかし、留学生か。


「恵ちゃんの大学。留学生多かったりするの?」

「京都ですからね。ちょくちょくいますよ」

「にしても、顔が広いね。わかる気もするけど」


 なんていうか、ちょっと話しただけで知識の豊富さがわかる。

 気遣いも出来るし、案内役には打ってつけだろう。


「そこまで意識したことは少ないですけどね」


 と彼女は平然としたものだけど。


 そんな風にして、京都の観光番組を見ていると、

 恵ちゃんがうつらうつらとしているのがわかった。

 

(今日は、恵ちゃんをがっかりさせちゃったし)


 ぎゅっと肩を抱き寄せる。


「え、えーと?」


 急過ぎたのか、目を真ん丸にする恵ちゃん。


「一応、僕なりに格好はつけておこうかなって」

「恥ずかしいですけど、とっても嬉しいです」


 目を閉じる彼女に、チュっと軽いキス。


「こういう時は、ちゃんとムード出せるんですね」


 こういう時は、か。


「僕は、僕なりに君のことが大事だってこと」

「……なんか、裕二君の距離の取り方って独特ですよね」

「そうかな?」


 お詫びというと少し違うけど。

 彼女の想いに応えたいって思っただけなのだけど。


「そうですよ。私も……これ言うの、自慢ぽくて嫌いなんですけど、言い寄って来た、男の人は色々いました」

「それは……そうだろうね」


 容姿だけじゃない。教養も知性もある。

 料理も、昔からお母さんの負担を減らそうと積極的に学んでいた。

 これ以上ない優良物件だろう。


「で、そういう人ですが。大別すると、ガンガン積極的に来るタイプか、様子を見ながら、少しずつ距離を縮めようとするタイプのどっちかでした」

「まあ、わかるよ。大胆に行くか慎重に行くかって事だよね」

「あとは、距離の取り方がわからないのか、オロオロしてるタイプもいましたけど」


 さすがに、モテる女性は違う。


「でも、裕二君は、まず、大事にしようって気持ちが先にあって。お近づきになりたいっていうのが後回しなのが独特なんですよ」

「まあ、男子たるもの、可愛い女の子にお近づきに、は、普通じゃないかな」


 あんまりそうは思わなかった僕は、じゃあ、なんだって事になるけど。


「そう。普通はそうなんですよ。でも、及び腰になったかと思えば、こうしてくれたり……それは、私が「従妹」だったからなんでしょうか」

「それはあるかもね。恵ちゃんが凄いいい女性なのはわかるけど、中二までの君を先に思い出しちゃうんだよね」


 ひょっとしたら、彼女が積極的なのに手を出す気になれないのも。

 今の彼女に昔の彼女を見出してしまって、背徳的な気分になるからなのかも。


「あの頃から、実のところ、そんなに変わってない部分もありますからね」

「そうそう。しゃべり方とかも、割とあの時のまんまだし」

「でも、変わった部分もありますからね。それは忘れないでくださいね?」

「もちろん、わかってるよ。もう「従妹」だとは思えないって」


 ただ、恋人というのと、「従妹」である部分が同居しているのも確かで。

 それで、好きなのに、ゆっくりと関係を進めたい気持ちになるのかもしれない。


 こうして、寝るまでのひと時を、二人でゆったりと過ごしたのだった。

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