第5話 初めてのデート
僕は、
ちなみに、京都市内、特に中心部は碁盤の目状に通りが走っているのが特徴だ。
四条通りは東西を通る大通りの一つで、烏丸通りは南北を通る大通りの一つ。
この東西と南北の通り名を組み合わせて、交差点を四条烏丸等と呼ぶ。
方向音痴でも迷わない、親切設計の都市だ。
「しかし、僕の服、ほんとアレだったんだなあ」
結局、「初デートまでに服買いに行きましょう!」という恵ちゃんの言葉に押されて、僕たちは、市内のユニクロで一式上下の服に靴などを揃えた。
「偏見だけど、ユニクロはそれはそれでダサいイメージあるけど、どうなの?」
と聞いてみたところ、
「全然そんなことないですよ。なんでも組み合わせ次第ですよ」
とのお言葉。ともあれ、彼女に全部服を選んでもらうというのは、彼氏としてとても情けなさを感じるのだけど、デートするときに、恥ずかしくないのがわかっているのはそれはそれで気が楽だ。
「
先週より暖かくなったからか、より春らしい装いだ。
花柄のブラウスに、ネイビーブルーの膝まであるスカート。
「いえいえ。それより、服、似合ってるよ。恵ちゃん」
「それは良かったです。少し、不安でしたから」
はにかむ恵ちゃんが可愛い。
「あれだけ自信ありげに、僕の服選んでたのに?」
「だって、今の裕二君の好みの服とかわかりませんし。あれこれ悩んだんですよ?」
「そっか、僕のためにありがとね」
と、つい、また、髪を撫でてしまう。
しかし、恵ちゃんはと言えば、目を細めて撫でられるまま。ほやーっとしてる。
「……っと、恥ずかしいですよ」
「ごめん、ごめん」
我に返ったのか、慌てて手を払いのけられる。
「人前だと、恥ずかしいですから」
え?そういう意図?
「じゃあ、人前じゃなければいいの?」
「昔、撫でてもらった記憶ありますし。嫌じゃないです」
「そっか」
今の僕と彼女の関係は恋人だけど、大きな大きなブランクがある。
そう思っていた。でも、変わらないものもあるんだな。
「さ、行きましょうか」
と、早速、腕を組んで来る恵ちゃん。
妹のように思っていた子にこうされるのは、とても、嬉しい。
嬉しいのだけど、とてもこそばゆい。それに、二の腕が……。
「……どうしたんですか?」
僕が、少し挙動不審なのに気がついたんだろうか。
不思議そうに見上げてくる。
「いや、恵ちゃんも、大人の女性なんだな、って思っただけ」
「そうですよ。もう、大人の女性ですよ。でも、裕二君は裕二君でいいですから」
「ブランクなんか気にするなって?」
「そういうことです。それに、あの頃のままで居てくれて嬉しかったですから」
こう、心憎い事を言ってくれる。しかし、あの頃か。
「僕も、少しは成長したと思うんだけどね」
さすがに、大学生活、それに社会人生活を送れば色々学んだ事もある。
「それは当然です。でも、根っこは変わっていないって、そう思います」
大きな瞳で、真っ直ぐに見据えられる。
確かに、学んだのは社会で行きていくための処世術であって。
その皮を一枚剥がせば、僕は今でも、あんまり変わっていないのかも。
「そうだね。そうなのかも」
「だから、自然体で、のんびり過ごしたいです」
自然体で、か。確かに、ちょっと堅くなっていたかも。
「じゃあ、自然体ってことで、早速提案。
「初デート……と言いたいですけど、裕二君らしいですし。付き合いますよ」
僕が言った寺町は、今居る烏丸四条から、東に十数分行ったところにある、小電気街とでも言うべき場所だ。PCパーツショップなどがあるのだ。
というわけで、寺町の某PCパーツショップにて。
「何か探しているパーツでもあるんですか?」
「CPU……は、確か、わかるよね」
「昔、裕二君に教わりましたね。パソコン用だと、IntelとAMDでしたっけ」
「スマホ用だと、もっと色々あるけど。そこを抑えてるとは」
「興味を持ったら何でも調べる性質ですから」
「そうだったね。CPUをAMDの第三世代Ryzen 7っていうのに替えようと思って」
「以前は何使ってたんですか?」
「IntelのCore i5。Haswell世代って言って通じる?」
「それは確かに替えたくなりますね」
通じちゃうのか。この子、実は自作PC趣味も持っているのでは。
「でも、それだと、マザーボードも取り替えないといけないですよね」
「そうなんだよね。だから、一式買って、自宅に送ってもらおうかなって」
「じゃあ、せっかくなら、ケースからオシャレなのにしましょうよ♪」
最近のPCパーツは光ったり、ケースもMacに似せたりと、色々凝っている。
「じゃあ、見せる用に、色々買おうか」
というわけで、結局、ほとんど一から組み立て直すくらい部品を買って、自宅に配送してもらうことになった。
「って、なんかごめんね。初デートなのに」
「私もケース見たり、光るパーツ見たりして楽しかったから、大丈夫ですよ」
「そっか」
「でも、ちょっと疲れましたね。喫茶店で休憩しませんか?」
「それもいいね。手近なところに入っちゃおう」
というわけで、パーツショップを出て、比較的近くにある喫茶店へGO。
二人で紅茶を注文して、向かい合わせになる。
「なんか、いいですね、こういうの」
頬杖をついて、ニコニコ顔の恵ちゃん。
「PCパーツショップデートが?」
「そうじゃなくて、こうして二人で向かい合ってるのが、です」
「僕も、恵ちゃんみたいな可愛い子とこうしてて、嬉しいよ」
「も、もう。褒め言葉は本当、躊躇しないんですから」
「だって、実際、そうだから」
「とにかく!」
照れたのか、強引に話を打ち切られた。
「喫茶店で、こういう雰囲気。憧れだったんです」
「恵ちゃんならいくらでも機会あったんじゃないの?」
「どうにも、私自身がそうなりたいと思える人が居なかったんですよ」
「お眼鏡にかなったようで、光栄の至り」
少しの間、お互いの間に沈黙が満ちる。
「なんだか、うまく行きそうだね。僕たち」
「だから、言ったでしょう?」
こうして、初デートは、不思議と落ち着いた雰囲気で。
ほのぼのとした雰囲気で過ぎていったのだった。
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